松丘:本日は人事制度に詳しく、書籍も沢山出版されているセレクションアンドバリエーション株式会社代表取締役の平康慶浩さん、同社OKRコンサルティングリーダーの山本遼さんと、OKRに関してお話したいと思います。

まず最初に平康さんに伺います。

これまで非常に多くの会社で人事制度改革をされていますが、どうして今、OKRということに関心を持たれたのか、お客様のどのような課題を解決されようしているのか教えていただけますか?

 

平康:一言でいうと多くの企業で「新領域での試行」、つまり新しいサービス、新しい商品、新しいマーケットへのチャレンジというものが必須課題になっているのが、OKRを重要視することになったきっかけです。

これまでもVUCAの時代と言われていましたけども、そうはいいつつも本業の部分に注力していれば会社自体の存続は可能でした。しかし、コロナショックをきっかけに世界が本当に変わりつつあることと、今までのビジネスは今後だめになるかもしれないとなると、常に新しいチャレンジをしなくてはならない。

そのときにこれまでの人事インフラだと、生産性概念やすでにあるビジネスを回していくということには機能するけども、まだ見ぬ商品を作る、まだ見ぬマーケットを作っていくというチャレンジは向いてなかった、そこで何か有効な仕組みはないかと探していて、それがまさにOKRだと考えた次第です。

 

松丘:新事業開発部門とか、そういうところだけがやっていけばいいのか、本業の部分も変わっていかなければならないのか、そのあたりはどうですか?

 

平康:本業の部分の新しいサービス、新しい商品が求められるタイミングにきています。これがまったく違うマーケットだと新規事業となると思いますが、既存事業、新規事業という区分ではなく、新しい部分にチャレンジするという意味では両方含むと考えています。

 

松丘:平康さんのお客様にはオーナー企業や歴史のある地方の企業も多いと思いますが、そういう会社でもこういった取り組みは始まっているのでしょうか?

 

平康:そうですね。このタイミングで特に人事制度改革を求められている会社というのは、やはり既存事業に限界を感じている会社が多いですね。オーナーシップが強いからこそ変えたい、逆に言うと一般的な大企業のように、プロパーの方が社長になっていくような会社だとこのチャレンジは難しいのではないかと感じているところです。

 

松丘:そういった意味ではオーナー企業のアドバンテージのようなものがあるということなのかもしれないですね。

 

平康:そうですね。アメリカやヨーロッパではファミリービジネスの方がROIが高いという話もありましたが、日本でも機動的な変化をしなければならないときに、オーナーシップがうまく機能してくるような気がしています。

 

松丘:大企業も当然ながら変わらなければならないというのは共通していますよね。

 

平康:もちろんです。既存ビジネスで生き延びて行ける期間が長い大企業だからこそOKRのようなインフラとしての人事制度の改定が必要でしょう。オーナー企業のようにすぐに始めましょうとはならないとは思いますが、だからこそ早めの着手が重要です。「新領域での試行」に向け、人事インフラ・評価制度を機能させなければ、これまでの仕事の延長しかやらない傾向が強くなると考えます。大きな玉を押していくのには大きな力が必要であり、動きもゆっくりだが押し続けなければ変わらないというのは大企業こその課題なのではないかと思います。

 

松丘:そうですよね。大企業は本業の生産性を高めるためにMBOのようなマネジメントをしてきていて、その行動様式ができあがりすぎているところがあります。サクセストラップに陥っている会社が非常に多いと思うので、そこを変えていこうとするとトップが変革するだという強い意志や信念を持っていないと難しいですよね。

 

平康:ちょうど昨年から今年にかけて、非オーナー系の大企業で、社長が変わられたタイミングで制度を変えたいというニーズを複数いただいております。想いのある方が経営者になられた時が変革のきっかけになるのではないかと思っています。

 

松丘:トップの想いの強さ次第なところもあるということですね。今後、平康さんはOKRに関してどのような事業展開をしていこうとお考えですか?

 

平康:弊社としては多くの会社の新規事業の創出、そこに貢献できればと思っています。そういった意味では特にしっかり運用していただくことが大事です。弊社では制度設計と導入だけでなく、運用面のサポート体制も整備しています。新制度を導入しても運用がMBO時代のままだったため、新サービス・新商品開発が十分に成しえなかった失敗例も見てきました。

今までのMBOのような人事制度以上に、現場管理職の意識と行動変革が必須です。だからこそ弊社のサービスラインとして設計と運用両方を支える体制を整えています。

 

松丘:これまで人事制度のコンサルティングをされている会社は、制度だけを作って運用は切り離しているところも確かにあったかと思いますが、運用面の支援とは具体的にどういうことをされるイメージですか?

 

平康:OKRの運用とは、試行錯誤を踏まえた軌道修正をタイムリーに行っていくことです。まさに御社名であるアジャイルHRが運用のポイントです。全社、各部、各課の階層ごとに連動した、将来目指したいゴールのための定性的な状況、定量的進捗状況を把握し、アクションプランを修正していかなければいけません。そこの部分のサポートはまさにシステムとは切ってもきれないと考えています。

私たちはまず初めにシステム活用を含めた円滑な運用ができるように、管理職をはじめとするマネジメント層への教育、現場の方々への行動変革の支援、これらをアクションラーニングのようなワークショップ形式を多用し、定着させていきます。

ざっくりと言いますと制度設計が3か月から6か月くらい、会社によっては1年くらいの期間で考えております。会社の規模によっては前後することはあると思いますが、その後1~3年くらいの運用フォロー期間が必要と考えます。

 

松丘:今までのアクションラーニングのような研修では、一人ひとりが自分でプランを作ってアクションしてといったケースが多かったと思いますが、OKRは単に個人が考えるだけはなくて、チームでアイデアを出し、話し合いながら考えて行動していくこともすごく大事かと思います。そういったチームに対するアプローチもお考えということですか?

 

平康:その通りです。OKRの効果のひとつに、よその部署が何をしているかを可視化し、そこから刺激を受けることもあります。自分たちだけでゴールの実現を考えるのではなく、上位の組織と連動した目標としてのオブジェクティブをしっかり理解しなければいけません。その上で自分たちがどのような役割を担えるかという関連性を考える必要があります。トップや会社全体からと自分の部署への関連性、他部署との関連性この2つが極めて重要と思うんですね。そういったことを可視化させるとなると、エクセルやワードではとても難しいと思っていますので、まさに可視化できるようなアプリケーションのサポートが必要になると思っています。

 

後半へ続く

 

平康慶浩(ひらやす・よしひろ)

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役社長

 

1969年 大阪生まれ アクセンチュア、アーサーアンダーセン、日本総合研究所を経て現職。
大阪市立大学経済学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得
グロービス経営大学院 准教授
株式会社ファイズ(東証一部上場) 社外取締役
特定非営利活動法人 人事コンサルタント協会 理事
大阪市特別参与として区長・局長・部長公募面接、校長公募面接を務める(2011年~2016年)
1990年代から、大手電機メーカー、大手楽器メーカーへの役割等級制度導入を皮切りに、以後200社以上の人事制度設計及び運用支援を率いる。
現在も、環境変化にあわせて人事変革を進める製薬業、建設業、機械製造業、放送局、IT企業、医療関連企業、出版社、電鉄、学校法人などでの人事制度改革を進めている。

 

【主な著書】

給与クライシス (日本経済新聞出版)
人生100年時代の「出世」のカラクリ (日本経済新聞出版)
マンガでわかる いまどきの「出世学」(日本経済新聞出版)
出世する人は一次会だけ参加します ―会社人生を決める7つの選択 (日本経済新聞出版)
出世する人は人事評価を気にしない (日本経済新聞出版)
逆転出世する人の意外な法則 ― エリート人事は見た!(プレジデント社)
課長1年目の教科書(かんき出版)
7日で作る 新・人事考課(明日香出版)
うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ(東洋経済新報社)