これからのパフォーマンスマネジメント

 アジャイルHRでは、2019年1月から2019年6月にかけ、日経BP社の人材開発支援サイト”ヒューマンキャピタルOnline”上にて、弊社代表取締役社長の松丘啓司が「これからのパフォーマンスマネジメント」と題したコラムの連載を行いました。

(本コラムはその全6回分のコラムを1コラムずつ再掲したものです)

 本連載では、「これからのパフォーマンスマネジメントがいかにあるべきか」について、順を追って考えていきたいと思います。

 ※パフォーマンスマネジメント…目標管理制度や評価制度に基づいて、個人と組織のパフォーマンス向上を促進するマネジメントのこと。


 社会人の学習の70%は仕事の経験を通じてなされると言われています。そのため、1on1の目的が部下の成長を支援することにあるならば、1on1とは部下の経験学習がより効果的なものになるように上司が支援する場であるとも言い換えることができます。

 では、部下の経験学習を効果的に支援するために上司に求められることは何でしょうか? その問いに答えるためには、経験学習とはどのようなものかを理解する必要があります。

 

心のセンサーの感度を上げる 

 経験からの学びを豊かなものにするには、2つの重要なポイントを意識する必要があります。1つ目は、そもそも学びの可能性が豊富な「良質な経験」をすることです。ただし、どれだけ良質な経験をしても、そのままにしていては学びが得られません。そのため、個々の経験からいかに「効果的な学習」を行うかが、2つ目のポイントになります。

 有名な「コルブの経験学習モデル」に従って、もう少し具体的に見ていきましょう。経験学習モデルでは次の4つのステップが定義されています。

  1. 具体的な経験
  2. 内省的な観察
  3. 抽象的な概念化
  4. 積極的な実験

 経験学習ですから、「1. 具体的な経験」が学習のスタートです。経験からの学びとは、何かの理論や知識を誰かに教えてもらうことでなく、自分自身で「気づく」ことです。「気づく」というのは、その経験にどのような意味や価値があるかを認識することです。それが「3. 抽象的な概念化」に当たります。

 そのため、「1. 具体的な経験」と「3. 抽象的な概念化」の間にある「2. 内省的な観察」のステップが重要です。「内省」は英語では「リフレクション」、日本語では「振り返り」と呼ばれます。

 「振り返り」はただ単に、何が起こったのか、なぜ起こったのかを思い出すだけではありません。より重要なことは、その出来事が自分の内面にどのようなインパクトを与えたかを思い起こすことです。内面へのインパクトは「感情」として現れます。したがって、自分の感情に向き合うことが「気づき」の出発点になるのです。

 その感情には「楽しかった」「うれしかった」といったポジティブなものもあれば、「悲しかった」「腹が立った」といったネガティブなものや、「何となくモヤモヤする」といったどっちつかずのものもあるでしょう。自分の心をセンサーとして、なぜそのセンサーが反応したのだろうかと、自分にとっての意味を考えるのが「3. 抽象的な概念化」といえます。

 この1~3のステップをしっかりと行うことが、「効果的な学習」につながるのです。

 

ネガティブな感情を乗り越える

 ではもう1つのポイントである「良質な経験」をするためには何が必要でしょうか? そのためのステップが「4. 積極的な実験」なのです。

 経験からの学びを次の経験に生かすには、積極的に実験しようとする行動が重要です。これまでと同じような行動をただ繰り返していてもそこからの学びは少ないでしょう。見知らぬ景色を見るために旅に出るような行動が求められるのです。それは「チャレンジ」と言い換えられます。

 しかし、ただチャレンジするのではなく、何らかの仮説を持って実験的にチャレンジすることが重要です。それによって、行動した後に仮説の検証が可能になるからです。

 チャレンジする課題を設定する際に、そもそも何にチャレンジをすればよいのかが分からないこともあるでしょう。その原因は多くの場合、経験を振り返って学んでいないことにあります。経験からの「効果的な学習」ができていれば、「次は~にチャレンジしてみよう」という道筋が見えるはずです。

 チャレンジに関するもう1つの重大なテーマは、チャレンジを阻害する心理的な抵抗の存在です。「うまくできるかどうか自信がない」「現状を変えることが怖い」「周囲にどう思われるか不安だ」といったネガティブな心理が、チャレンジの阻害要因になります。

 チャレンジができない理由としては、心理的な抵抗の方が大きいことが通常です。そのため、「4. 積極的な実験」を行うためには自分のネガティブな感情を乗り越えることが求められるのです。

 

上司の「姿勢」と「実践」にかかっている

 以上でお分かりのように、経験学習では「感情」がきわめて重要な要素になります。そのため、1on1においては部下が自分の感情に向き合い、自己開示して話せる場を作れるかどうかがその効果を大きく左右すると言っても過言ではありません。

 では、そのために上司に求められることは何でしょうか? それはコーチングやフィードバックのスキル以前に、上司の「姿勢」と上司自身の「実践」にかかっています。反対に、上司の姿勢と実践が欠けていたなら、どれだけスキルを学んでも効果がないばかりか逆効果にもなりかねません。

 「上司が受け止めてくれる」「自分のことを応援してくれている」と安心できるからこそ、部下は身構えることなく自分の内面に向き合い、言葉にすることができるのです。「部下のことを支援したい」「応援したい」という上司の姿勢は部下に必ず伝わります。

 言い方を換えれば、上司が「部下に関心」を持っているのか、「自分自身に関心」を持っているのかという、関心の焦点のありかの問題ともいえます。上司が上司自身に関心を持った状態で1on1に臨んでも、部下はけっして自分の気持ちを率直に語ることがないでしょう。

 上司に求められるもう1つのことは、上司自身が経験学習を「実践」しているかどうかです。葛藤を乗り越えてチャレンジをしたり、経験を深く見つめて学んだりすることのない上司から、部下は支援を受けたいと思えるはずがありません。

 1on1は部下にとっての経験学習の場ですが、その前提として上司自身が日々、経験学習を実践していることが不可欠なのです。

 (2019年5月28日掲載)

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<著者プロフィール>

松丘 啓司(まつおか・けいじ)

(株)アジャイルHR 代表取締役社長

東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社。人と組織の変革を担当するチェンジマネジメントグループの立ち上げに参画。以後、一貫して人材・組織変革のコンサルティングに従事。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任。独立後、エム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任。以後、ダイバーシティ&インクルージョン、パフォーマンスマネジメントなどの領域で、企業向けの人材開発・組織変革プログラムの開発と提供を続けている。

2018年にはパフォーマンスマネジメントに特化した株式会社アジャイルHRも設立。パフォーマンスマネジメントを支援するアプリ1on1naviの開発・提供や、1on1研修やOKRワークショップ等の研修・ワークショップ、コンサルティングサービス等を提供している。主な著書として、『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』『ストーリーで学ぶ営業の極意』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『論理思考は万能ではない』『組織営業力』等がある。