これからのパフォーマンスマネジメント

 アジャイルHRでは、2019年1月から2019年6月にかけ、日経BP社の人材開発支援サイト”ヒューマンキャピタルOnline”上にて、弊社代表取締役社長の松丘啓司が「これからのパフォーマンスマネジメント」と題したコラムの連載を行いました。

(本コラムはその全6回分のコラムを1コラムずつ再掲したものです)

 本連載では、「これからのパフォーマンスマネジメントがいかにあるべきか」について、順を追って考えていきたいと思います。

 ※パフォーマンスマネジメント…目標管理制度や評価制度に基づいて、個人と組織のパフォーマンス向上を促進するマネジメントのこと。


 ほとんどの企業では期ごとに個人目標が設定されています。けれども、それらの個人目標を周囲に(あるいは全社的に)公開している企業はごくわずかです。さらに目標の進捗状況までオープンにしている企業に至っては、皆無に近いのが実情です。

 ある調査研究によると、個人の目標と進捗状況を公開することによって目標の達成度が向上するという結果が分かっています。後述するように、目標を公開することによって様々なプラスの影響が生まれるからです。それにもかかわらず、個人目標が公開されないのはなぜなのでしょうか?

 個人の目標の進捗度は人事考課に密接に関連するため、公開すべき性格のものではないといった認識があるのかもしれません。あるいは、上司と部下との間で目標を個別に握っているため、オープンになると不都合が生じるケースも想定されます。しかし、個人目標を非公開にすることによるデメリットは、けっして無視できるものではないのです。まず、そのことについて説明しましょう。

 

目標の非公開は生産性を下げる

 個人目標がオープンにされないことの第1のデメリットは、他の誰がどこに向かって仕事をしているか分からない職場環境を作ってしまうことです。

 実際に多くの会社で、「隣のチームですら何が行われているのか分からない」という声を聞くことが少なくありません。おそらく他部署の業務内容を全く理解していないわけではないはずですが、目標が公開されていないと「今、重点的に何に取り組まれているのか」が分からないのです。

 誰が何をやっているのかが分からない状況では、連携のしようがありません。他の人に相談したり、逆にアドバイスをもらったりするような機会が生まれにくくなってしまいます。つまり、コラボレーションが促進されないのです。

 また、周囲の人たちの目標が分からないと、仕事の全体が理解できないなかで自分の目標を追うことなり、まさに「木を見て森を見ず」の状況に陥ってしまいます。その結果、高い視点で自分の仕事を捉えることができなくなって、視野が狭まってしまいます。

 個人目標がオープンにされないことの第2のデメリットは、仕事の楽しさが削がれることです。

 一人ひとりが自分の目標だけを見て仕事をする結果、仕事の範囲は狭い領域に閉じ込められてしまうことになります。組織の中で上下のコミュニケーションはあっても、横との関わりが希薄になるため、みんなで一緒に仕事に取り組んでいるという感覚が持てなくなってしまうのです。

 職場とは本来、仲間とともに過ごす場であるはずですが、極端なケースでは「朝に会社に来て、夕方に帰るまで誰とも一言も話さなかった」といった事例を耳にすることもあります。その結果、職場に楽しさを求めるのはもともと無理なので、収入を得るために割り切って働こうといった意識が強化されてしまいます。

 このように目標を非公開にしていると、コラボレーションが起こらず、視野が狭まり、仕事の楽しさも希薄化してしまうため、生産性の向上やイノベーションを抑圧してしまいかねないのです。

 

縦の動機付けから横の動機付けへ 

 OKR(Objectives and Key Results)のコンセプトでは、目標をオープンにすることが原則です。それによって、生産性の向上やイノベーションの促進が図られるからです。

 本人の目標を上司(およびその上司)しか知らないという状況では、おのずと縦の関係が強化されます。上から目標が与えられて、その達成度で評価されるという環境においては、どうしても上を見て仕事をしてしまいます。上司の意向を強く気にする結果、待ちの姿勢、すなわち受け身の姿勢が強化されることになります。裏を返すと、自分で考えて行動するという主体性が弱められてしまうのです。

 また、上司による自分の評価がどうしても気になるので、周囲に気を配るよりも自分の成果を優先して考えるようになりがちです。そのことによって、他のメンバーや他のチームとの間に壁が作られ、いわゆる個人主義や組織のサイロが出来上がってしまうのです。

 組織の中において縦の動機付けが不要だというわけではありませんが、横の動機付けも必要です。個人目標の公開は、横の動機付けを強めるための打ち手といってもよいでしょう。

 目標と進捗状況がオープンになると、周囲から常に見られている環境に置かれるため、目標に対する個人の責任感やコミットメントが高められるという効果があります。また、本人も他のメンバーの状況を見ながら、「仲間もがんばっているから自分もがんばろう」という気持ちを持つことができます。

 チームの各メンバーがチーム全体の目標に向けて仕事をしている状況が目に見えるようになるため、チームに貢献することが重視される価値観が強化されるようになります。それが横の動機付けです。それによって、自分だけが成果を上げればよいのではなく、チームに貢献するために他者を支援するという行動が促されます。つまり、コラボレーションする職場が育まれていくのです。

 個人目標の公開は、やろうと思えばすぐにでもできる施策です。小さな打ち手ではありますが、その効果は絶大といえるでしょう。

(2019年2月19日掲載)

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<著者プロフィール>

松丘 啓司(まつおか・けいじ)

(株)アジャイルHR 代表取締役社長

東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社。人と組織の変革を担当するチェンジマネジメントグループの立ち上げに参画。以後、一貫して人材・組織変革のコンサルティングに従事。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任。独立後、エム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任。以後、ダイバーシティ&インクルージョン、パフォーマンスマネジメントなどの領域で、企業向けの人材開発・組織変革プログラムの開発と提供を続けている。

2018年にはパフォーマンスマネジメントに特化した株式会社アジャイルHRも設立。パフォーマンスマネジメントを支援するアプリ1on1naviの開発・提供や、1on1研修やOKRワークショップ等の研修・ワークショップ、コンサルティングサービス等を提供している。主な著書として、『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』『ストーリーで学ぶ営業の極意』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『論理思考は万能ではない』『組織営業力』等がある。