これからのパフォーマンスマネジメント

 アジャイルHRでは、2019年1月から2019年6月にかけ、日経BP社の人材開発支援サイト”ヒューマンキャピタルOnline”上にて、弊社代表取締役社長の松丘啓司が「これからのパフォーマンスマネジメント」と題したコラムの連載を行いました。

(本コラムはその全6回分のコラムを1コラムずつ再掲したものです)

 本連載では、「これからのパフォーマンスマネジメントがいかにあるべきか」について、順を追って考えていきたいと思います。

 ※パフォーマンスマネジメント…目標管理制度や評価制度に基づいて、個人と組織のパフォーマンス向上を促進するマネジメントのこと。

 


 目標管理制度や評価制度に基づいて、個人と組織のパフォーマンス向上を促進するマネジメントのことをパフォーマンスマネジメントと呼びます。パフォーマンスマネジメントは企業内のマネジメントプロセスの根幹であるにもかかわらず、ほとんどの日本企業においてうまく機能していないのが現実です。つまり、パフォーマンスマネジメントがパフォーマンスの向上に役立っていないのです。

 現在のパフォーマンスマネジメントの仕組みは、約20年前の成果主義導入のタイミングで一斉に構築されました。どの企業も似たような仕組みであるため、抱えている問題点も類似しています。20年前とは企業を取り巻く環境も大きく変化しており、今やイノベーションを生み出すマネジメントが求められていますが、現在の仕組みはむしろイノベーションの阻害要因となってしまっています。

 企業はパフォーマンスマネジメントのあり方を真剣に考えるべき時期に来ています。本連載ではこれからのパフォーマンスマネジメントがいかにあるべきかについて、順を追って考えていきたいと思います。

 

上意下達でイノベーションは起こらない

 企業における年間を通じたパフォーマンスマネジメントのプロセスは目標設定から始まります。その際、大半の企業では、全社の目標⇒部門の目標⇒チームの目標⇒個人の目標と、上から下に目標が配分されていきます。期末には、期初に立てた目標の達成度によって評価が行われます。

 このような方法によるパフォーマンスマネジメントは、むしろ「業績管理」と呼んだ方が正確かもしれません。企業である以上、必然的に行われるべきことという認識が染みついているようです。個人別の業績管理を徹底しなければ、会社全体の業績が低下してしまうという強迫観念が存在するようにも感じられます。

 けれども、イノベーションが企業の業績を左右する時代になると、こうしたやり方では効果が出ません。その理由を4つ挙げてみましょう。

 

  •  安全志向になる

 例えば営業担当者に与えられた目標が100であったとしましょう。多くの担当者はまず見込める数字を積み上げます。その結果、80までは何とかなると予想される場合、残り20をどうやって埋めようかと考えるでしょう。その際には、少しでも確実に結果を上げられる方法を考えるに違いありません。けれども、そのようなアプローチからは常識的なアイデアしか出てきません。

 不確実性の高い環境では、やってみなければ結果が分からないようなチャレンジを繰り返して学習することが重要なはずですが、目標の達成度で評価されることによって、むしろリスク回避的な行動が強化されてしまうのです。その結果、仮に与えられた目標が達成できたとしても、それを大幅に上回ることはほとんど期待できません。

 

  • 主体性が欠如する

 上から目標を与え続けると、メンバーは「目標とは与えられるものだ」という受け身の意識を強めてしまいます。それによって、自分で考えてゴールを設定するという経験が不足し、言われないことはやらなかったり、いつも判断を上に仰いだりすることが常態化してしまう恐れがあります。

 変化の激しい環境においては、現場で自律的な判断や行動ができなければ、変化のスピードに取り残されてしまいます。もはや上司が答えを知っている時代ではないため、主体性の欠如は企業の生存を左右する大問題といっても過言ではないでしょう。

 

  • 個人主義になる

 目標の達成度で個人を評価することによって、自分の目標達成が最優先の課題になります。その結果、他者あるいは他部門の仕事に対する関心が低下し、相互の協力関係が希薄化してしまいます。実に多くの企業において、隣のチームが何をやっているのか分からないといった状況が日常化してしまっているのです。

 イノベーションを生み出すために、個人や組織を超えたコラボレーションが不可欠ですが、個人の目標達成が優先される結果、コラボレーションに価値が見いだされなくなってしまっています。そのことによって、仕事の面白さや楽しさも損なわれてしまうのです。

 

  • ネガティブ思考になる

 目標の達成度を管理する際、上司からのフィードバックは目標と実績のギャップに目が行きがちです。つまり、できていないことや改善点の指摘が多くを占めるため、フィードバックがいわば「ダメ出し」のオンパレードになってしまう恐れがあります。改善点を克服することが成長することといった認識を上司が持っていると、ますますダメ出しを続けてしまいます。

 その結果、部下のマインドは「頑張ってもできない」というネガティブ思考に支配されてしまいます。「どうせダメだから、ほどほどに頑張ろう」という意識が強化されてしまったらパフォーマンスが向上するわけがありません。

 

OKRによって個人の主体性を取り戻す

 目標とは上から与えるものという考え方を維持したままで、さらなるパフォーマンス向上は期待できないため、これからのパフォーマンスマネジメントでは目標設定の考え方が見直される必要があります。その際にヒントとなるのが、OKR(Objectives and Key Results)のコンセプトです。

 OKRは古くからインテルで活用され、グーグルで初期の頃から採用されている目標設定のフレームワークとして有名です。OKRそのものを用いるかどうかは別として、OKRのコンセプトはこれからの目標設定の参考になるでしょう。OKRにはいくつかの特徴がありますが、その一つが「ボトムアップ」です。

 会社という組織に属している以上、個人の目標はチームや会社全体の目標に貢献するものでなければならないことは言うまでもありません。けれども、そのためには目標を上から下に渡さなければならないわけではありません。一人ひとりが、「チームの目標達成に貢献するために、自分ならばこれをゴールにしたい」と、下から上の目標に突き刺すようなアプローチを取ることによって主体性が維持されるのです。

 ボトムアップの目標設定は、自分が「これをやりたい」という主体的な意志から出発します。さらにその目標が安全志向ではなく、「アンビシャス(野心的)」なものであれば、上から目標を与えるよりもはるかに大きな成果が期待されます。

 個人に目標を設定させたら、簡単に達成できそうな目標しか立てないのではないか、という懸念を抱く方も少なくないに違いありません。そのようなことを回避するために、OKRには以下の3つの特性が含まれています。

 

  • オープンに公開する

 OKRでは個人の目標を周囲や全社に公開することが原則です。それによって、もし安易な目標を立てていたなら周囲にはすぐに分かってしまいます。そのことによって、互いに高い目標にチャレンジしようとする動機付けがなされるのです。

 

  • トップ自身がチャレンジする

 トップ自身が高い目標にチャレンジする姿を見せることによって、組織全体にその影響が波及します。上司が意欲的な目標設定を行うことが、部下の高い目標を設定するための前提条件であることは言うまでもありません。

 

  • 達成度で評価しない

 目標が野心的であればあるほど、その達成は容易ではありません。簡単には達成できない目標を立てることを促すためには、達成度で評価を行うことは止めなければなりません。では、どのように評価を行うのかという疑問を持たれると思いますが、それについては本連載の別の回で解説したいと思います。

(2019年1月22日掲載)

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<著者プロフィール>

松丘 啓司(まつおか・けいじ)

(株)アジャイルHR 代表取締役社長

東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社。人と組織の変革を担当するチェンジマネジメントグループの立ち上げに参画。以後、一貫して人材・組織変革のコンサルティングに従事。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任。独立後、エム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任。以後、ダイバーシティ&インクルージョン、パフォーマンスマネジメントなどの領域で、企業向けの人材開発・組織変革プログラムの開発と提供を続けている。

2018年にはパフォーマンスマネジメントに特化した株式会社アジャイルHRも設立。パフォーマンスマネジメントを支援するアプリ1on1naviの開発・提供や、1on1研修やOKRワークショップ等の研修・ワークショップ、コンサルティングサービス等を提供している。主な著書として、『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』『ストーリーで学ぶ営業の極意』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『論理思考は万能ではない』『組織営業力』等がある。