緊急事態宣言も解除され、経済活動も再開しつつある。引き続き、感染防止策を取りながらの業務再開。業務再開の歓びや安堵感もある一方で、自粛生活の疲れもあり、働く個々人の気持ちが追いつかない面もあるだろう。

 

 今回、世界的な新型コロナウイルス蔓延という前代未聞の事態に見舞われ、強制的に業務停止もしくは自粛の事態に陥り、どの業界・職種においても受けた打撃は少なからずあっただろう。あるいは、既に見えている影響だけでなく、今後より甚大な影響を予期せねばならならない業界もあるだろう。業界としては勿論だが、そこで働く一人ひとりも、年齢や立場、家族環境によって様々な痛みや不安を抱えているだろう。それら経験している痛みや不安を無視し、“ない”ものとして、ただ通常業務に戻らせようとするのは健全なことではない。空白期間の遅れを取り戻さねばならない心理も働くとは思うが、同時に、従業員ひとりひとりの心のケアがこれまで以上に大切なのは言うまでもない。

 

 ただ業務に追われる日常に戻ってしまう前に、無理なく少しずつエンジンをかけるためにも、助走期間を設け、丁寧に一人ひとりの気持ちに向き合っていくことをお勧めしたい。


もやもやした感情にも向き合いながら

 心理的な安全性を確保しながら、「今どのような気持ちでいるか?」。「職場に戻れて嬉しい」という気持ちもありつつ「なんとなくやる気が起きない」「体調がすぐれない」などのような微妙な揺らぎ含めて、オープンに開示できる場があるとよいだろう。体調を管理し、生活のペースを取り戻すためにそれぞれがやっている工夫などを気軽にシェアしあってもよい。オフィシャルには改まって共有しにくいかもしれないが、こういう時こそSNSや社内チャットなどのオンラインツールの出番かもしれない。個人ベースでは、職場に戻ってからは日々アップダウンする気持ちの波を把握し、そこに何があるかチェックすることから始めてもよい。

 

 新型ウイルスの影響は日本全国に及んでおり、誰もが不調や不安を感じても当然である。感じていることに良い・悪いと言う判断をせず、あるがままに把握し、捉える習慣は、セルフマネジメントにも部下マネジメントにも、そして顧客との対話にも役立つ力となる。組織として力を高める目的でも取り組めるとよいだろう。

 

ただの空白期間でなく、そこで得た気づきもあるはず


 この期間、業務が実質上停止に追いやられ、自宅待機に近い状態になった方も多かったことだろう。しかし、単なる空白期間と捉えずに、そこで得たもの、気づいたことも必ずあるはずであり、そこに光を当てることも新たな気持ちでスタートを切る上では重要である。業務から離れている間に、「はやく仕事をしたい」「職場に戻りたい」衝動を感じた方も少なからずいたに違いない。今までは毎日やって当たり前だったことが決して当たり前ではないこと、自分自身のかけがえのない一部であったことに気づかされる機会ともなった。「なぜ自分がこの仕事をしているのか」「なぜこの仕事でなければならないのか」「今の組織を誇りに思うところはどこか」、改めて言葉にしてみることをお勧めする。


 そして、多くの日本企業はこの期間にリモートワークに一気に踏み出すこととなり、「働き方改革」という意味では、大きく前進するチャンスともなった。多くの社員が在宅勤務を経験し、自律したプロフェッショナルとして自分の仕事をどう組み立て、課題を見つけて取り組めるか、チャレンジを突きつけられた。対面での会議を経ずにオンラインでの合意形成、意思決定を下さねばならない場面もあっただろう。以前までは絶対に無理だと思っていた数々のことを思い切ってやってみたり、省いたりすることで、意外とうまく行ったこと、結果として無駄な業務を省き、生産性を高める結果になったこともあっただろう。

 

 勿論、周到な準備があって踏み切った訳ではないので、課題や問題点も多かっただろう。それら個々人のリモートワーク体験からの気づきや課題を共有することで、今後、個人の生産性・自律性をどう高めていけるか、オンラインなどを活用して組織内のコミュニケーションをどう活性化できるか、など組織としての学びに活かしていくことができる。

 

そこからどうしたいか?描いてみる

 社会的に新しい生活様式というものが掲げられているが、外から与えられた基準を気にかけて遵守するだけでは疲弊してしまう。前述のように自分達が感じている気持ちを丁寧に扱い、この期間の体験や気づきを振り返った上で、個人として、またチーム・組織のレベルとして、①続けたいこと、②やめたこと、③新しく始めたいことを明確にして、自分達なりの「新たな習慣・行動様式」として、今後のアクションに活かしていこう。

 

①この時期に始めたことで、今後も続けたいと思ったことは何か?

②それまでは当たり前にやっていた行動で、無駄だったり、効果的でなかったりするために、今後はやめてみようと思ったことは何か?

③今までの制限ある生活の中では我慢していたこと、あるいは新たな視点や発想を活かして、今後、新たに始めてみようと思ったことはあるか?

 

 このようにして、今回の大きな社会環境の変化を、自分達が内発的に作りだしたい「働き方」や「組織のあり方」などの変化につなげていけるとよいだろう。


佐々木 郷美(ささき・さとみ)

株式会社アジャイルHR/講師・ファシリテーター

 

英国立ランカスター大学卒業後、米国系人材育成会社に入社。トレーニング商品の開発や講師育成、マーケティングに従事。その後、米国系人材アセスメント会社に移り、内的動機を可視化するアセスメントツールを使った組織内の適材適所な人材配置、採用、能力開発のコンサルティングに従事する。

2005年より、エム・アイ・アソシエイツ株式会社に参画。企業研修の開発・講師チームのリーダーとして、経営層向けのワークショップや幅広い年代を対象としたキャリア研修、マネジャー研修などの開発と、講師としてサービス提供に携わる。現在はアジャイルHRにて、キャリア開発に関する研修講師としても登壇中

米国ケースウェスタンリザーブ大学にてポジティブ心理学を応用した組織開発の修士コースを修了。KIT虎ノ門大学院にて、マネジメント持論のゲスト講師として「内側からの組織変革」を担当。米国CTIコーチング応用コース修了