現場で部下の潜在力を引き出し、組織のパフォーマンスにつなげる上司の役割の重要性が増している。それとともに、部下の成長を支援するための上司と部下の1対1の対話(1on1:ワンオンワン)が話題になり、導入企業が増えている。

 

 1on1の対話は、今まで馴染みの業務上の報告・連絡・相談のやり取りとは性質が異なるため、やり方や進め方に戸惑うマネジャーも多いことだろう。部下が主役となって進めるため、対話の質は部下の性格、やる気、自律性に依存しがちな悩ましさもある。上司として、1on1をどう建設的かつ効果的な場にしていけるか?当コラムでは、1on1を進めるポイントや勘所、ヒントをお伝えしたいと思う。

 

1.「何のための話し合いか?」目的を明確に

 まず、「何のための話し合いなのか?」、1on1の目的と上司・部下それぞれの役割を認識しておく必要がある。1on1の話し合いは、「部下の成長を支援し、潜在力を引き出して、組織のパフォーマンスにつなげること」が目的。つまり、あくまで主役は部下自身であり、1on1は「自分のための場」という認識で、主体的に取り組むことが望ましい。従って、部下は「自分の成長(自身の能力開発やキャリア開発、組織内での貢献)に責任を持つ」、上司は「部下の自律的な成長を支援する役割を担っている」という意識を持って欲しい。

 

 そのために、上司は、本人のポテンシャル(潜在的な強み)や価値観(何を大切にして仕事をしているか?)がどこにあるのか?に好奇心を向け、あるいは、部下自身もそこに気づけるよう関わることが重要である。その上で、部下は、上司の持つリソース(組織内での権限・意思決定力、社内外のネットワーク、キャリアの先輩としての経験や知見)を最大限に活用し、上司は惜しみなく提供していくという意識を持つことが必要だろう。

 

 さらに、ビジネスの現場は日進月歩で進化していて、上司が常に正解を持っているとは限らない。部下との対話の中から上司自身も新たな視点に気づくことで、現場の声からイノベーションにつなげられる可能性もある。そのように、両者にとって中長期的に実りある場になることを目指して、話し合いを始めて欲しいと思う。

 

2.モードを切り替えて、場を整えよう

 次に大切なのは、部下が話しやすい場づくりだが、組織内で上下関係がある以上、部下は上司に対してある程度、遠慮があるだろうし、仕事上の利害が対立することさえある。もともとの部下との心理的距離感や関係性によっては、「自由に思ったことを表現して良い」「何を言っても批判されたり、否定されたりすることはない」と言われても、部下自身がいきなり心を開いて本音を話すことは難しいこともある。

 

 部下がオープンに自己開示して、1on1に積極的に取り組むために、場の心理的安全性を確保するのは上司の役割であると思っていただきたい。そのために、上司側が意識的に場をデザインし、関わり方を工夫していく必要がある。何か結論を出すための議論の場ではなく、お互いの価値観や視点の違いを知ることが重要。リラックスした雰囲気のもと、話す割合は部下7割に上司3割くらいを目指し、上司はモードを切り替え、自分の考えを説得するスタンスは脇に置いて望んで欲しい。

3.「どういう場にしたいか?」意図を持つ

 さて、実際に「何を話せばよいか」は、事前にどれくらい決めておく必要があるだろうか。詳細なアジェンダまではなくても、漠然とでよいので、上司が「どういう場にしたいか?」を意図していると、ある程度の方向性を持って1on1の対話を始められるので効果的だ。

 

 例えば、「今の職場に来て日が浅いので、本人のことを深く理解すると同時に、自分のビジョンや考えも知ってもらい、相互理解を促進したい」や「最近モチベーションが下がっている様子なので、本人の悩みや障害と感じていることに耳を傾け、どう取り除けるか話し合ってみよう」、あるいは「今後、組織の中での活躍のステージを広げて欲しいので、会社やチームをどうしていきたいか?本人の考えや思いを引き出してみよう」などである。1回の1on1で完結しなくても、継続的に一定の方向性に向って進めることができる。また、大まかなゴールイメージがあると、毎回の1on1で何がどこまで達成できたか、振り返ることもできる。

 

 もちろん主役は部下なので、部下の方から「このことについて話したい」というテーマがあがってくれば、それが理想的。ただ、最初のうちはなかなか自分から出て来ない可能性もある。「今日話したいテーマはあるか?」と投げかけてみて、特になさそうであれば「こういう話をしたいと思っているがどうだろう?」と提案すると、部下自身も選択しやすいだろう。また、話している最中に他のテーマの方が重要だと思ったら、当初設定した意図に固執する必要はなく、自然な流れに任せて、話が発展していってもよい。

 

4.自分の「関わり」を意識しよう

 意図と同時に、その日の1on1で意識したい「関わり」を明確にしておくと、進めやすくなる。例えば、今の職場に来て日が浅く、相互理解を促進したい部下には、相手の話に「傾聴」して、自分自身の「自己開示」も少し意識しよう。最近モチベーションが下がっている部下であれば、相手の感情やその奥にあるニーズに寄り添って「傾聴」しつつ、ポジティブな面にも目を向けることができるよう「勇気づけや励まし」を意識しよう。会社やチームをどうしていきたいか?を聞きたい部下であれば、本人のビジョンやイメージを「質問」によって広げて明確化することや、強みや期待を伝える「承認」を意識しよう、などである。

 

 こうやって1つか2つキーワードとして意識すると、議論や説得、ティーチングからモードを切り替え、切り替えたモードを維持しやすくなる。また、1on1で自分のどういう投げかけや関わりが効果的だったり、効果的でなかったりしたか、自覚的に振り返れるようにもなる。もちろん、当初意識しようと思った関わりに固執する必要はなく、話の展開によって柔軟に自分の態度や反応を切り替えることも重要だ。技術的にうまくできるかよりも、上司がより良い場にしようと努力する姿勢は必ず部下にも伝わる。初めはぎこちないかもしれないが、新しい靴を履く感覚で試していただきたい。

 

5.振り返りでは「気づき」を大切に

 1on1の対話が思うように進まなかったり、脱線したりすることもあるだろう。それでも構わない。ただし、話し合いを終える前に、最後に「今日の1on1を振り返って、何に気づいたか?」「次へのアクションとして何をしたいか?」と部下に問いかけ、ともに振り返る時間をぜひ取ってもらいたい。

 

 気づきには2種類ある。1つ目は、人間には自分の考えを言葉にして自分の耳で聞くことで自分の考えに気づくという、オートクラインと呼ばれる機能があり、(1)「自分自身はこういうことを考え、感じているのだ」と気づくことである。自分の考えや気持ちは内に秘めているだけでは自覚しにくく、聴いてくれる相手がいて言語化することで初めて、本人も明確に捉えられる。

 

 そしてもう1つは、上司とのやり取りで得られた、(2)「今までの自分にはなかった新たな視点や考え方」という種類の気づきである。このように、話の内容そのものよりも、「そこから自分の中に何が生まれたか?」、視点や意識の変化を捉えることが、自律的な成長に必要な「内省」の力を養うことになる。


 また重要なのは、1on1の対話から“何に”気づくかだが、上司は部下が「自分」や「仕事」や「組織(会社/チーム)」について「誇りに思うこと」を見つけられるようサポートして欲しい。「誇りに思う」というと唐突感があるかもしれないが、ポジティブな感情に結びつく、他の様々な表現に言い換えてもよい。

 

 「今のままの自分でよい(自己肯定感)」「自分は役に立っている(自己有用感)」「やりがいがある(充実感)」「やり遂げた(達成感)」「成長している(成長実感)」「この組織の一員である(帰属意識)」「仲間とひとつになれている(一体感)」などである。これら前向きで、小さな気づきを大切にすることが、よりチャレンジングな目標を掲げて挑戦しようという意欲につながっていく。

 

 なぜこのことが重要かと言うと、人間は脳の作り上、意識が欠点やマイナスポイント、ネガティブな感情に行きやすい。成り行きに任せると、人の気づきは「~ができていない」「~がないから仕方がない」で終わってしまうことが多い。本人が悩みや不満を吐き出すこと自体は、決して意味のないことではない。しかし、課題意識があるということは「こうしたい」「こうなったらよいのに」という思いや願いの裏返しでもある。それらに気づき、「ない」ことではなく「ある」ことに焦点が当てることが、今後のアクションにもつながりやすく、建設的である。

 

6.今後の「アクション」につなげよう

 上記の気づきを踏まえて、部下に「今後、何をしてみようと思ったか?」、次に向けたアクションを洗い出してもらおう。「話をしたことのなかった人と話してみよう」、「新しい情報をインプットしてみよう」など、1on1がなければ避けていたことに、1つでもチャレンジできるとよいだろう。また、「最近始めた新しいチャレンジを継続しよう」でもよい。時には新しいことを始めるより、継続する方が難しい場合もある。「自分の習慣となっている効果的でないアクションを止める」、でもよいだろう。いきなり大きな変化や成果を求めるのではなく、小さなアクションに確実に取り組み、成功体験を積み重ねることが大切である。

 

 部下も1on1の対話に慣れてくると、振り返りの際に「~さん(上司)との対話から、今まで自分では当たり前だと思ってやっていたことが、チームの役に立っていて、それも自分の強みだと気づくことができた。今後はもっと貢献できる領域を増やしていきたいので~に取り組んでみようと思う」「~さん(上司)と話をすることで、自分自身がこの仕事の何に魅力ややりがいを感じているのか思い出すことができた。さらに難易度の高い業務にチャレンジしていけるように、~についての知識をより深めてみたいと思う」などのように、自ら自分に必要な気づきやアクションを明確にし、持ち帰るようになっていくだろう。

 

7.話し合いの後に、記録に残そう

 

 上記のように、1on1の最後に振り返りの中で出てきた気づきとアクションは、部下には話し合いの後、記録に残しておいてもらおう。文章として再び自分の考えを言語化することで、気づきが更に深まり、意識に定着する。また、次の1on1ではその内容を踏まえて話を発展させることができるし、継続的に記録を取って後から振り返ることで、自分自身の成長を実感することもできる。

 

 1on1の話し合いの後には、上司自身の振り返りも大切にして欲しい。「当初設定した意図に照らし合わせて、今回の1on1では何をどこまで達成できたか?」「自分のどんな関わりが良かったか?」「部下についてどんなことに気づいたか?」「部下の成長やアクションをどう支援できると思ったか?」など、振り返って次に活かしていくと、少しずつ場も進化して、有意義な話し合いができるようになるだろう。また、1on1以外の現場でのコミュニケーションや問題解決もスムーズになり、組織風土が徐々に変わっていくことが期待できる。

 

 部下との1on1の対話は非常に地道な取り組みなので、最初は目に見える変化を実感しにくいかもしれない。しかし、中長期的には必ず手ごたえある成果につながると信じて、ご紹介した“7つの心得”を参考にしながら、「できること」「できていること」に目を向けて取り組んでいただきたいと思う。


佐々木 郷美(ささき・さとみ)

株式会社アジャイルHR/講師・ファシリテーター

 

英国立ランカスター大学卒業後、米国系人材育成会社に入社。トレーニング商品の開発や講師育成、マーケティングに従事。その後、米国系人材アセスメント会社に移り、内的動機を可視化するアセスメントツールを使った組織内の適材適所な人材配置、採用、能力開発のコンサルティングに従事する。

2005年より、エム・アイ・アソシエイツ株式会社に参画。企業研修の開発・講師チームのリーダーとして、経営層向けのワークショップや幅広い年代を対象としたキャリア研修、マネジャー研修などの開発と、講師としてサービス提供に携わる。現在はアジャイルHRにて、キャリア開発に関する研修講師としても登壇中

米国ケースウェスタンリザーブ大学にてポジティブ心理学を応用した組織開発の修士コースを修了。KIT虎ノ門大学院にて、マネジメント持論のゲスト講師として「内側からの組織変革」を担当。米国CTIコーチング応用コース修了