サイオス株式会社 代表取締役社長 喜多伸夫 氏(左):
サイオス株式会社代表取締役社長、サイオステクノロジー株式会社代表取締役社長、一般社団法人 WebDINO Japan(旧Mozilla Japan)理事。京都工芸繊維大学卒業。
1993年から1999年までの米国生活中にLinuxと出会い、シリコンバレーのLinuxベンチャー企業立ち上げを支援するとともに、米国のオープンソースソフトウエア開発者たちと積極的に交流。1999年に帰国後、Linuxシステムメーカーのナンバーワンを目指してノーザンライツコンピュータ株式会社の社長に就任。2002年1月、株式会社テンアートニと同社の合併に伴い、株式会社テンアートニ(現サイオス株式会社)の社長に就任。

松丘:最初に御社がどういう会社か、特徴を教えていただけますか?

喜多氏(以下、敬称略):サイオス株式会社という持株会社の下に複数の事業会社があり、どの会社もITをベースとした製品やサービスを提供しています。コンシューマー向けビジネスもありますが、エンタープライズソフトウエア関連のビジネスが大半を占めており、多くが法人向けです。グループ全体の社員数は、海外の事業会社を含め約500名で、売上は2019年度実績が136億円という規模です。

変革のねらい

松丘:御社では人事や組織マネジメントの大きな変革に取り組まれていますが、最初にそのねらいについて教えていただけますか?

喜多:我々はテクノロジーをベースとしたビジネスを行っています。我々の財産は、製造業のような設備ではなく、人がすべてです。なぜなら、テクノロジーは人によって生み出されるものだからです。働きがいのある環境を提供する会社でなければ、大切な人材は集まってきません。多様な人材がこの会社で働きたいと入社した時に、彼らのためにやりがいのある仕事が中長期的かつ永続的にできる状態を作ることが、事業戦略上のトッププライオリティーとなります。会社をそのような状態にするために変革を行っています。

松丘:たいへん意欲的なビジョンですね。それを実現するために、どのような取り組みをされてきましたか?

喜多:2018年に全社員へのヒアリングを実施しました。その結果から様々な課題を抽出し、それらをどのように解決していくか検討を行ってきました。IT業界では優秀な人材の獲得競争が起こっています。中途採用では競合にあたるIT関連企業から当社へ入社するケースや、逆のケースもあり、その多くが外資系企業です。つまり、競争相手はグローバルなので、グローバルなIT企業における最先端の人事施策を常にベンチマークしながら、我々にあった制度にアレンジして導入をしています。

自律性・主体性重視の組織運営

松丘:グローバルIT企業のどのような点に注目されているのですか?

喜多:特に人事施策が進んでいると言われる企業を見ると、社員が自律的に仕事をしていますし、それができる環境が揃っています。我々もそこを目指しています。これまでの組織運営は、どちらかというと会社全体としての目標を達成するために、ピラミッド型の組織としての統制を重視する考え方でした。しかし、時流としてはむしろ社員一人ひとりが主体性を持ち、自らが組織に必要なことを考えて判断し、それを成し遂げることによって貢献していく流れに変わっています。実際にそのような人事施策を行っている企業の競争力が高まっています。我々もそのような方向を目指すことが、会社としてのさらなる強みになると考えました。

キャリアコースと等級の廃止

松丘:とは言っても、これまで上からの指示に従っていた人に、主体性を持ってほしいと言ってもすぐには変われないですよね。

喜多:従来は会社として、求める人材像を社員に提示していました。複数のキャリアコースがあり、キャリアコース別に等級が設けられ、スキル標準が設定されていました。その等級に応じたスキルが身に付いているか否かが、その人の評価や報酬のベースとなっていました。しかし、それは会社側が求める人材像であって、本人の特性と必ずしも一致しているとは限りません。そのことが弱みになってしまっている可能性があると考え、キャリアコースと等級およびスキル標準を廃止しました。社員が主体的に自分たちのキャリアや、会社にどのような形で貢献できるかを考えて動ける組織にする必要があると考えたからです。

OKRと1on1の導入

松丘:等級まで廃止するというのは大胆な打ち手ですが、主体性を発揮してほしいというメッセージの本気度が伝わりますね。

喜多:会社が求める人材像をなくした代わりに、OKRを導入し、会社やチームの目指す目標に向けて社員が主体的にゴール設定を行うことにしました。自分が策定したOKRに対し、どのような形で会社に貢献し、その中で自分がどのように成長したいのかを、自分で考えて行動するように変えました。会社が求める人材像といった羅針盤がないため、社員は自分の作成したOKRが適切なのかという迷いや課題に直面すると思われます。それを上司と部下が一緒になって解決していくための施策として1on1を導入しました。

バリューの見直しと360度アセスメントの実施

松丘:評価制度についてはどのような見直しが行われましたか?

喜多:当社には全社員が共有する価値観としてSIOS Valuesという行動指針がありましたが、より分かりやすくするためにSIOS Values 2.0へ改定しました。評価制度については、新たに360度アセスメントを導入しました。キャリアコースと等級を全廃しましたので、どのように会社やチームに貢献しているのかを測る方法として、社員がお互いに評価し合う仕組みを構築しました。また、「自分はこのような貢献をしたので、この程度の報酬に値する」と報酬を自己申告できるようにしました。その妥当性を360度アセスメントのアセッサーが見ていきます。

ITの活用

松丘:IT企業の御社は、この変革においてITをどのように活用されているのでしょうか?

喜多:あらゆる領域で活用していますが、特にOKR、1on1は重要ですよね。すべてのOKRを社員一人ひとりが見ることができ、各々のOKRのつながりも簡単に分かることが実現できなければなりませんから、その「見える化」が大変重要だと思います。しかも皆、時間に追われて仕事をしていますから、簡単にできなければ意味がありません。

プロジェクト型組織への移行

松丘:現在、360度アセスメント実施まで来たところだと思いますが、今後、新たな計画はありますか?

喜多:今年の4月1日には大きな組織変更を予定しています。現在は事業部制で縦割り組織ですが、それをサービスライン(プロジェクト)とセンター オブ エクセレンス(機能)という形で運営しようというものです。これまでは異なる事業部の仕事はできなかったため、「隣のチームは何をやっているのか分からない」という状況でしたが、これからは社内の様々なプロジェクトから社員が自分たちでどのプロジェクトを選んでもよい、しかも複数選んでもよいという選択制に変わります。同時に権限移譲をさらに進め、役員はサービスラインへの助言は行うが、意思決定には関わらないという位置づけにします。

研修と社内コミュニケーション

松丘:このように大きな人事・組織施策の改革について、社員の方とどのようにコミュニケーションをされているのでしょうか?

喜多:各社社員が四半期に一度集まる社員集会で説明を行い、資料はイントラネットで公開しています。OKR、1on1、360度アセスメントに関しては、全社員を対象にした研修を実施しました。全員の意見を毎回、一人ひとり聞くことはできませんが、当社はアンケート文化が根付いていることもあり、頻繁にアンケートを実施しています。さらに、どこが良くてどこが良くなかったかが明確になるように、質問内容には工夫を加え、アンケートの結果は毎回精査しています。辛辣な意見も出てきますが、多様な考えに耳を傾けることを心掛けています。

松丘:この取り組みによって、御社がますます素晴らしい会社に進化していくことを期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。


松丘 啓司(まつおか・けいじ) 株式会社アジャイルHR 代表取締役

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。2018年にパフォーマンスマネジメントに特化した株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任。主な著書として、『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。

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