HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐氏と、アジャイルHR代表取締役 松丘啓司の対談をお届けします。

 

楠田;昨年2019年、色々な企業を訪問してわかったことがあります。それは、社員が自律していないということ。今、振り返って考えてみると1999~2000年頃、人事セミナーのテーマで「これからの時代、キャリアは自分で作っていくもので、もうレールは引かれていない」という論調がすごく多かった気がします。それは1997年の山一証券やと北海道拓殖銀行の経営破綻があったことに起因していました。あれからちょうど20年経ち、昨年2019年から再び大リストラが行われています。20年に一度大リストラがあるって何なんだろうかと考えると、やはり自律していないのだと思いますね。2000年に入社した人たちが45歳になりリストラ。これが、この20年間の人材マネジメントの欠点だったのだろうと、そんな風に思います。

 

それはタレントマネジメントシステムとラーニングマネジメントシステムの結果なんじゃないかと思っています。タレントマネジメントシステムは、どうしても経営・人事が欲しいデータを管理するというイメージがある。ラーニングマネジメントシステムは、研修もやらされている感がある。ですから結局マネジメントシステムというものが単なる管理ツールになっていき、管理される受け身の人材が強制的に何か勉強させられたり、入力させられたりするということで終わったんだろうと思っています。

 

一方、9ブロックの右上に来る一部の社員ばかりにサクセッションプランなどで投資したので、その他の人たちは自分のキャリアは自分で作ると言われながら、砂漠に放り出された感じで、先の見えないキャリアになったのかなと思っていますが、松丘さんはそれに対してご意見ありますか? 

 

松丘:まさに、アジャイルHRを設立した目的がそこを変革することにあります。ちょうど20年前、今のウオーターフォール型の成果主義人事の仕組みを日本企業が一斉に入れましたが、この20年間、日本の一人当たりのGDPはずっと横ばい、まったく生産性が高まっていないというだけでなく、国際順位は20年前、日本は5位以内に入っていたのが、2018年は26位になってしまっているので、そういった意味で、これまでのマネジメントは成功してきたとはいえないと思っています。

 

楠田:そうですよね。私はやはり働いている一人ひとりが自律していないと、自己実現もできないと考えますね。今の若い人たちはやりたいことがありキャリア意識も高いが、入った職場の上司(マネジャークラス)が自律していないとやっぱりどんどん同質化していく気がしますね。昨年USに2回行きましたが、5年くらい前からEmployee Engagement、Employee Experience、最近ではEmployee Journeyといった言葉をよく聞くので、US企業の人事も社員に寄り添ってきているのだと感じています。だから日本も人事がこれから従業員、社員に寄り添いながら自律するような仕組みを作っていかなければならない。そしてこれは確実にツール、HRテクノロジーをうまく組み込んでやる必要がある。そうしないと、過去20年間のトラウマは解消できないのではないかと考えているところです。

 

一方、間違いなく人事は自由競争に入ったと思っています。これは採用の問題と定年の時期、昨年でいうと5年前に65歳で定年とした企業で、65歳から70歳まで再雇用しようかともう検討し始めた企業もあります。政府も70歳まで働きましょうと唱えていますよね。入口と出口が自由競争になると人材マネジメントそのものも自由競争になると思っていましたが、US企業がノーレイティング、1on1によるコミュニケーション、OKRを一生懸命実施している中で、日米が逆転してきたと感じる部分もあります。

 

日本は古くから産業別の労働組合があり人事が横につながるので、どこの会社でも人事制度が似通っていたのが、今そこが、自由競争に入ったなとすごく思いますね。ノーレイティングの本も松丘さんは書かれましたが、どうですか?

 

松丘:そうですね。レイティングを廃止する直接的な狙いは、レイティングが決して人の成長をモチベートしない。あるいはレイティングのベースになっている正規分布が人のパフォーマンスの実態を歪めてしまうということにありますが、レイティングをやるやらない以前に、マネジメントの仕方として、上から目標を与えて達成度で評価していくという上意下達型のウオーターフォール型の目標管理がベースにあるので、結局、それ自体を変えるかどうかということだと思います。

 

ですから、自律の反対、会社の方針に従って上から目標を与えるので頑張ってやりなさいというマネジメントであれば、皆がリーダーシップを発揮する必要もなく、一部の選抜された人がリーダーになっていけばよかったわけですが、そのビジネスモデルだとイノベーションが非常に生まれづらくなっているというのが前提にあると思います。例えばグーグル社なんかは元々自律した人を採用して、OKRで目標を自律的に立てさせるということをしているので、マネジメントのベースとなるモデル自体が違うということですよね。

 

楠田:また、2020年は、何もしないとピープルマネジメントが希薄になるとみています。オリンピックの時期に在宅勤務が急増し、その間、マネジャーと部下が全く対話をしなくなる可能性があるので、そこでまた想定外なことが起きたらいけないと思いますね。だから、やはりこれからはHRテクノロジーを使いこなして、良好なピープルマネジメントをしていかないと職場が疲弊すると思います。

 

2019年は“ローパ(ローパフォーマー)” という言葉を使う人事部の方が増えた気がします。私は“ローパ、ローパ” と口癖のように言う人には、御社は“ローパ“を採用したんですか?て聞いています。皆さん、どきっとされますが、人事が”ローパ“と言うこと自体どうなのかなと思っています。

 

”ローパ“については、日本に存在する企業はきれいに3つに分かれていると思います。1つ目は自分が”ローパ“だなと思ったら健全なる流動化で外に出ていく仕組みが整っている会社。2つ目は希望退職制度を用いる会社。3つ目はそのままにしている会社。いずれにしても2つ目はお金が必要になるし、3つ目は職場の雰囲気が悪くなる。1つ目は、世の中的にはすぐ人が辞める会社となります。どれが良い悪いではなく、1つ目が一番自律していますよね。自分で決めているわけですから。3つ目はみんな安全なことしかやらなくなりますよね。”ローパ“の話をするとやっぱり262の法則があるから下の2割は絶対出るだろうという考えを持った人事の責任者が存在する。いろんな会社が存在する中で社員を自律させるということが大事ですよね。

 

VUCA(変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、 複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字)の時代は先が見えませんが、私は、人事はすべての社員に光を見せることができると思っているんですよ。自己実現できるようなFA制度にするとか、自分で能動的に学習することが認められるとか、AIやHRテクノロジーも活用して。令和2年、社会や事業の先が見えないのであれば人事が本当にやるべきことは社員に光をみせてあげるということだと思います。どうでしょうか?

 

松丘:なぜ自律していないかというのは、一人ひとりが自律的に自分のキャリアを考えることができていないからでしょうね。私は2005年からキャリア研修をやっていますが、昔に比べるとキャリアを考える機会というのは結構、増えていると思います。ただ会社の中のマネジメントが自律をあまりさせていない気がしています。高校生の子どもの成績を上げる時に、親が高校の数学や英語を勉強してそれを教えますか、と研修でよく尋ねます。それよりもむしろ、一人で勉強できるように動機づけるとか、あるいは自分は頑張ればもっとできるんだというグロースマインドセットを高められるように励ますとか、環境を作ってあげる方が現実的ですよね。会社でもそうしましょうということです。

 

楠田:その通りですね。結局、日本の労働法が硬直的なので、余計なことはしてはいけない、仕事中しゃべらない、言われたことだけやりましょうということだとすると、労働法が底辺にあるとその上のマネジメントは上意下達の方が機能しますよね。だから総じていえば、日本の歴史ある会社は多くが社員を兵隊化しているのではないかなと思います。だからそこには自律はないんですよね。

 

松丘:一方で、私が社会に出たのは1986年の男女雇用機会均等法の時なんですが、大企業にコンサルタントとして入る場合、プロジェクトマネージャーは30代の課長クラスで、その人たちが予算を渡されて、会社の経営戦略を決めるようなプロジェクトをリードしていました。昔の日本企業のミドルマネジメントは裁量権をもっていましたし、会ってももっとオーラがありましたよね。ですから、昔から軍隊化していたのかというと必ずしもそうではなくて、バブル崩壊後しばらくまでは、どちらかというと上層部というのはあがりのポジションで、「良きに計らえ」という会社が多かったと思うんですよね。

 

楠田:それは2つありますね。1つはやっぱり松丘さんが社会に出る5年くらい前まで日本は55歳定年だったんですよね。だから早く権限を与えないと定年しちゃうというのがあったと思います。ところが今は65歳まで働くとか、政府が70歳まで働くとか言っている。もう1つは、2019年の4月から日本の大企業の管理職は国から時間管理されブルーカラー化していること。

 

またUS企業の日本法人は、日本の労働法の上にアメリカ式のものを組み合わせているので、どうHRトランスフォーメーションができるかなというのが試されているんじゃないかなと思っています。日本企業でそこができている会社というのは、外資系企業の人事でキャリアを作った人が日本企業に転職してやり始めているケースが多いかなと思っています。でもそういう人でも、新入社員で入った会社は日本企業だったという人もいたりします。保守本流的に日本企業だけで育った人が、そういうトランスフォーメーションをやろうとすると不十分になります。

 

松丘:やっぱり混ぜていくというのは大事ですよね。

 

楠田:そうですよね。人事の組織も多様化するとトランスフォーメーションってすごくできますよね。そういう中で1on1naviはある意味自律していく、またはマネジャーと部下の対話をするきっかけになるんじゃないかなと思っているので、企業人事として社員を自律させたいというのであればやはり活用した方がいいと思うし、HRテクノロジーを使わないで自律させるということは恐らくできないのではないかなと思いますね。だって20年間できなかったのですから。

 

松丘:1on1naviは既に社員の方がある程度、自律している会社はすぐに使えると思うんですよね。例えば自分で経験学習できるような人は、ツールに何か書き込んで自分はこんなこと気づいたと発信することもすぐできるわけですが、忙しく働いているけど全然学習していないという人は、そもそも何を書けばいいのかわからないでしょう。ウオーターフォール型の管理をしていると会社の目標、部門の目標、チームの目標、個人の目標、と目標が落とされていくので、自分や部署の目標達成みたいなものの優先度が高くて、他の部署のことというのはあまり関心がないというようなサイロ化した会社が非常に多いわけです。自分たちの情報をオープンにするということに対してすごく抵抗がある。でもそれをオープンにしなかったらそのツールを使う意味がないですよね。そういう心理的安全性が低い会社がやはり多いです。ツールを入れれば自律したり組織の風土が変わったりするかというと決してそうではないんですが、ツールを使いこなせるようになれば、社員の自律性だとか組織風土も相当変わるんじゃないかと思います。

 

楠田:間違いないですね。今の話を続けていくと副業という言葉が出てきますが、副業したら自律できるのかということですが、外発的な形から副業するのでは自律はないと思います。

 

松丘:副業するというのは基本的に時間管理じゃないということですよね。働いた時間の長さではなく成果なので、ちゃんと会社に貢献しているから時間は自分でマネジメントして副業もできます、ということですから、自律していないとそもそもできないと思います。

 

楠田:非常に複雑な時代にまた入ってきましたね。でも人事はどこを目指すのか、ぶれないで、決めたらコミットして実行していくっていう決断力とスピード感がないとすぐ今年も大みそかがやってきそうな気がします。

 

松丘:そうですね。実行していくときには、マーケティング的な発想。たとえば成功事例をつくっていくとか、関心の高い層にその層が必要としているようなサービスを提案していくとか、そういう発想で動いていかないと難しいですよね。

 

楠田:昨年いろんな企業を訪問してわかったのが、A社は色々な新しい施策をできる事業部からやりだしている。ある事業部だけフレックス制にするなど。B社も1on1をやりたいと手を挙げてきた部署だけで導入している。人事は一斉にやりたがる傾向にありますが、全部やらないと公平じゃないという考え方はもう壊れ始めていますよね。

 

松丘:でもそれに気づいた会社は早く変わりますね。

 

楠田:そうですね。だからA社は今すごいですよ。労働組合もそこに対してものすごく賛成しているみたいですし、時代は変わってきているということですよね。人事のトップだけでもそういう人と、いやいやうちの会社は、と言って全くやらない人とに二極化するだろうと思っています。

 

それから、2019年の特徴です。2011年に私が執筆した「破壊と創造の人事」では、人事と総務は分けるべきだとしており、多くの日本の大企業において人事と総務が分かれました。ところが2019年、人事と総務がまた一緒になっている。これはとてもいいことだと考えます。A社もこれまで人事と総務を分けていましたが、今は総務人事本部になり、人事が600人、総務が300人という大部隊になっています。働き方改革は、オフィスレイアウトを始め総務の権限になってくるので、人事がやりたいと言っても総務部が反対するとできないからです。

それから最近訪問したC社も、人事と総務を今まで完全に分けていたのですが、今度、人事部長が新しくなり総務人事部になっていました。A社とまったく同じことを言っていました。何をするかによって、一緒にしたり離れたりするのは重要だと思います。

 

松丘:デジタル化の影響でしょうね。やっぱりスピードが重要なので、今までの仕事の進め方だともう遅すぎて話にならないとすると、基本は同時並行的に進めると言う風にしていく必要がありますよね。ただし、1on1はしっかりやる。

 

楠田:そうですよね。A社のようなデジタルトランスフォーメーションを本業する会社は、その時に何が重要かというと、アナログなコミュニケーションだと言っています。そういう時代だからこそ人事の出番が増えるんですよね。マスコミはデジタル化するから人事不要では?仕事がなくなるのでは?と言いますが、現実はそうではありません。

 

松丘:仕事自体はほとんどデジタルでできると思いますが、人のケアや、あるいはコミュニケーションをとりながら気づきを得たり勇気づけたりするのは、デジタルだけでは無理ですよね。

 

楠田:昨年末、日本オラクルの創業者と食事をしましたが、日本もUSもCDショップの半分くらいはまだLPレコードが置いてあるという話になりました。先日LPレコードを出してきて30年ぶりにプレーヤーで聞きましたら、CDも持っているレコードですが、レコードをかけた瞬間に涙が出たんですよ。アナログの音楽はヴィンテージ感がデジタルとは全く違うということです。やはりデジタルは感動しないという話を二人でしました。だから彼も、HRテクノロジーに携わっているんだと思います。

人事は、デジタルだけで後は知らないというような労務管理だけをしていてはだめですね。2020年はオリンピックイヤーですし、人事もスピード感を持つということを自分事としてやっていかねばならないと思います。

 

 

 

 

 

 

 

楠田 祐 (HRエグゼクティブコンソーシアム 代表)

NECなど東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。会長を経験後に中央大学大学院ビジネススクール客員教授(MBA)を7年間経験。2015年は日テレのNEWS ZEROのコメンテーターを担当。2016年より人事向けラジオ番組「楠田祐の人事放送局」と「楠田祐の人事アウトサイド・イン」のパーソナリティを毎週担当。2017年よりHRエグゼクティブコンソーシアム代表に就任。2018年より株式会社アジャイルHR取締役に就任。

(主な著書)

「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。最新の著書は「内定力2017〜就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)

(主なCDアルバム)

「破壊と創造の人事」2015年6月発売
「残業イルミネーション」2015年12時発売
「The Times Will Change」2016年12月発売