株式会社キーポート・ソリューションズ 森田昇氏(左):早稲田大学理工学部卒業後、積水化学工業、三菱総合研究所、アーンスト・アンド・ヤング・コンサルティングなどを経て、企業経営プロフェッショナルとしてキーポート・ソリューションズ代表取締役(現任)を含めこれまで十数社の役員を歴任。現在、株式会社キーポート・ソリューションズ代表取締役会長の他、サイオス株式会社(東証2部)取締役専務執行役員をはじめ、数社の役員(現任)を兼任。専門は経営企画・事業戦略・M&A。

 

ヒューマンキャピタルOnlineにて、アジャイルHR代表取締役 松丘啓司のコラムの連載第3回目が掲載されました。

本連載では1on1を導入している企業とのインタビュー対談を全6回でお届けしています。

各社における1on1の導入の背景、導入・運営にあたってのポイント、ITツールの活用方法、導入後の効果など、1on1に関するトピックスを中心に実際の事例についてのお話を伺っています。
 
第3回目は、株式会社キーポート・ソリューションズ 代表取締役会長 森田昇氏にお話を伺いました。

 

松丘:最初に御社がどういう会社か、特徴を教えていただけますか?

森田氏(以下、敬称略):株式会社キーポート・ソリューションズ(以下、「KPS」)は、約20年前の1998年に創業し、今では世界的に広く普及しているJavaというコンピューター言語がまだ黎明期の時代に、インターネット証券取引のフロントシステムとして、ネット取引の先駆者である松井証券に採用されて以来、一貫して金融系のシステム開発を手がけている会社です。

 今では総合金融会社、ネット証券会社に加えてフィンテック領域の開発から農業系のグリーンテック、そしてHRテックにまで領域を広げているテックカンパニーです。

松丘:早速ですが、御社では1on1はいつ頃から何を目的として実施されていますか?

森田:1on1は、私も役員を兼務している親会社サイオス株式会社が、OKR(Objectives and Key Results)の導入とともに取り組んでいる最中で、KPSでも今年から一部の部門で運用に着手したところです。

 先行しているサイオスでは、全社で設定・展開している挑戦的なOKRを確実に進捗させるために、アジャイルに組織と個人の方向性を同調させていくことをねらいとして、頻繁な1on1を実施しています。一方で、KPSではOKRと連携させることよりも、1on1を通じて従業員のコンディションを良好に保つことを重視しています。

松丘:1on1を始めてからこれまでに、どのような変化を感じていますか?

森田:正直なところ、まだ戸惑っているところが多いような気がしています。聴く側も、話す側も慣れておらず、双方向の「対話」であるべき1on1が上意下達の「議論」になっていたり、本来は聴くべき側が話してばかりいるなど、心理的安全性が醸成されていない中で1on1が実施されているようなケースも散見されるのが偽らざるところです。

 ただ、誰もが「話す」ことで、ストレスリリースになることも事実ですし、感覚的距離感が縮まって、関係の質が良くなっているような気がします。期待するパフォーマンスを得るためには、まず関係性が成立することが第一歩だと思いますので、その点では1on1の成果を感じています。

松丘:ところで御社では、御社で開発されたWillysmというシステムを活用されていると聞いていますが、どのようなシステムか教えていただけますか?

森田:Willysm(ウィリズム:特許取得済み)は、私自身がIT会社を経営するなかで、エンジニアのモチベーションが少しでも前向きになり、結果として組織全体の生産性を上げていくにはどうすればよいか、という問題意識から開発したサービスです。

 言うまでもなく、企業経営にとって人は宝です。しかし、その人を客観的に理解する手段がこれまでにはあまりありませんでした。もし、社員の気持ちを定量的に分析することができれば、健康経営を実現することができますし、企業価値向上にもつながるはずです。

 「人は成功すると幸せになるのではなく、幸せな人が成功する」―というのは、心理学者のショーン・エイカーが語った言葉ですが、仕事をする上で、その人の気持ちが前向きであるか、あるいは後ろ向きであるかが、組織の生産性を左右するたいへん大事な要素になると考えています。

 最近の研究では、ポジティブな気持ちで仕事をする人の生産性はネガティブな人よりも31%向上すると言われているのですが、別の調査では、職場で悩みを抱えている人は80%に上り、悩みを上司に相談したいと思っているけれども、できていないというのが実態だそうです。

 Willysmは、一日の仕事の終わりに、自分の気持ちを3つの色で表して記録し、自分だけでなく、所属する組織に対する気持ちを青色・黄色・赤色でマッピングすることを通じて、個人と組織の状態を一目で分かるようにしたものです。

松丘:1on1にはどのように生かされているのですか?

森田:具体的には、毎日午後5時になると、パソコンやスマートフォンの画面上に3色のボタンが配置されたポップアップアプリが表示されます。一日を振り返って、自分の気持ちが青色「Excellent!」、黄色「Well Done!」、赤色「Not So Good」のどれに当たるかを入力し、次に一日を通じてわずかでも感謝、幸福、幸運に感じたことを簡単な文章を入力したら終わりです。5分もかからない作業です。

 これが蓄積されていくと、例えば納期が近づくにつれて赤色が増え、ストレスが高まっている人が分かります。上司が気遣ってアドバイスや食事に誘うこともできるでしょうし、経営者や労務担当者は、一人ひとりのコンディションを一覧で確認することができるのです。

 私たちも毎週の幹部ミーティングの場で、従業員の気持ちを、Willysmを通じて確認し、声かけや1on1の機会を逃さないようにしています。1on1の頻度を増やしていくことも課題ですが、1on1が必要とされている人に対して、必要なタイミングで実施することが可能になるのです。

松丘:最後に御社における今後の展望について教えていただけますか?

森田:最近、Willysmは気持ちを判定する際に、顔の表情からAIが画像判定する機能を追加しました。このようにHRテクノロジーを活用して、モチベーションやコンディションのマネジメントに寄与するサービスをさらに充実させることで、ワークエンゲージメントの向上を目指していきたいと思っています。これからも、自らHRテクノロジーの活用を実践していくつもりです。

松丘:先進的なテクノロジーを活用して、対面での1on1がより効果的にできるようになることを期待しています。本日はありがとうございました。

 



松丘 啓司(まつおか・けいじ) 株式会社アジャイルHR 代表取締役

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。2018年にパフォーマンスマネジメントに特化した株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任。主な著書として、『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。

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