タレンタ株式会社 田中義紀氏(右):慶応義塾大学院理工学研究科管理工学専攻修了。日本オラクル株式会社、日本ヒューレット・パッカード株式会社を経て、タレンタ株式会社の前身である株式会社サンブリッジソリューションズに入社。海外の最先端テクノロジーを活用した日本企業のバックオフィス業務の効率化・高度化の支援に一貫して携わる。2009年以降はHRテクノロジー領域に特化し、人事業務の効率化や高度化に加え、現場コミュニケーションの活性化や内的動機づけの促進を狙った最先端HRテクノロジーの発掘や日本企業への適用手法を開発し、サービスとして展開している。

 

ヒューマンキャピタルOnlineにて、アジャイルHR代表取締役 松丘啓司のコラムの連載第2回目が掲載されました。

本連載では1on1を導入している企業とのインタビュー対談を全6回でお届けしています。

各社における1on1の導入の背景、導入・運営にあたってのポイント、ITツールの活用方法、導入後の効果など、1on1に関するトピックスを中心に実際の事例についてのお話を伺っています。
 
第2回目は、タレンタ株式会社 代表取締役社長兼COO 田中義紀氏にお話を伺いました。

 

松丘:最初に御社がどういう会社か、特徴を教えていただけますか?

田中氏(以下、敬称略):タレンタは、国内外の最新HRテクノロジー製品の日本市場への展開を通じて、日本企業の人材マネジメント変革の実現を支援する会社です。複数製品を取り扱っているのですが、現在は米国HireVue社のデジタル面接/AIアセスメント事業に最も力を注いでいます。人材マネジメント変革の支援を通じ、私たちのミッションでもある一人ひとりの「Work Happy!」の実現を狙います。一人ひとりが仕事をするなかで感じる「Work Happy!」が企業の長期的な価値の向上、さらには日本全体、世界全体の活性化につながると信じて日々活動しています。

松丘:早速ですが、御社では1on1はいつ頃からどれくらいの頻度で実施されていますか?

田中:2018年1月からですので、1年9カ月になりますね。当初は2週間に一度でしたが、徐々に頻度を落とし、7月から1カ月に一度で行っています。

松丘:頻度を落とした理由は何でしょうか?

田中:まず、社員間での相互理解ができてきたということが挙げられると思います。プライベートな部分も含め、仕事に影響することが共有できるようになり、それぞれのキャリアに対する考え方への理解が深まってきました。また社員が自律的に行動できる範囲が広がってきたからです。

松丘:日程はどのように決めていますか? また、1回当たりの時間はどれくらいですか?

田中:1on1終了後、次回の日程の決定と部屋の確保をアシスタントにお願いしています。当初は30分間で始めましたが、現在は頻度を落としたこともあり、50分間で実施しています。最初の30分間はできるだけ聞くことに徹し、そのあとディレクションやアドバイスをしたりします。対話を通じてアイデアが出た時には、アクションに落とし込むところまでやってしまいます。

松丘:1on1のねらいや目的はいろいろあると思いますが、何を中心に考えられていますか?

田中:当初はねらいや目的は特に定めずに、自社でも1on1を実践してみようという所から始めました。拠り所として1on1naviの3つの項目(誇れること・気づき・次へのアクション)を活用し、話を引き出すことを心がけて実施しました。すると、「誇れること」を通じて相互理解が深まり、「気づき」が学習の機会となり、「次へのアクション」を通じて個人の考えと会社の方向性との整合性を取る場とすることができました。

 最近では個人と会社のOKR(Objectives and Key Results:目標設定の手法)をシステム的にひもづけるという運用を通じ、個人目標とその進捗状況を基軸とした1on1を実施しています。3つの項目は変わらず拠り所としています。これまでは目標を立てて四半期ごとにレビューするまでの中間のケアがあまりできていなかったんですが、OKRに対してどのような思いを持って、どういう状況で行動をしていくかを話してもらっています。

松丘:「誇れること」に何を書いてよいのか分からない、と言われることがよくありますがいかがですか?

田中:同じことは感じていて、最初からぱっと出てくるメンバーとなかなか出てこないメンバーがいます。出てこないメンバーは自信が持つことができていないケースがあるので、こちらから、こういうことしていたよね、以前と比べて前進したよね、と話を振って引き出しています。そうすることで、各人で段階の幅は違いますが、少しでも前進していると実感することができ、成長や貢献を1on1の度に確認できていると思います。

松丘:OKRの設定は、最初は難しいと思いますが、どのように浸透させているのでしょうか?

田中:まず会社の目標をバリューチェーンごとに立てて、そこに個人の目標をひもづけてほしいという話をしています。この個人目標と会社目標がつながるよねと、アドバイスしています。週次の全体会で、会社全体の前週の振り返りや今週の予定を共有するので、そこで1on1naviを使っています。実際にOKRの画面を見せて、進捗やアクションプランを共有したりしています。

 あとは、各人が立てた目標やアクションプランに対してアクション完了メモのようなものをコメント欄に入力しているメンバーもいます。任意なので全員ではないですが、自分自身でしたことを記録しておきたいというメンバーは活用しています。

松丘:チームで目標や進捗を共有することによって、何か変化は起きたりしていますか?

田中:個人と会社の一体感、つまりエンゲージメントは上がってきていると感じます。1on1naviを使う前も個人の四半期目標は立ててもらっていたのですが、言わば「神棚に飾ったまま」で、3カ月後の振り返り時に神棚から降ろしてきて、立てた目標を思い出すという状況だったのかなと。1on1naviを活用することで、週次サイクルで会社目標やその進捗と個人目標やその進捗との関連が明確になります。さらにスマホで随時見ることもできるので、チームの一員として「つながっている」「貢献している」という感覚は、以前より強まっているのではと思います。

松丘:今後、もっとこうしていきたいという点はありますか?
 

田中:会社の目標との整合性を意識しながら、自律的に個人が目標を立て、週次なり月次なりで振り返ってPDCAを回す、というのが理想だと考えています。進捗の30%って何だ、という共通認識ができて、進捗管理がゲーム感覚になるとすごくいいなと思っていますね。1on1naviはあくまでも、自律的に意識と行動を変えていくツールだと思っているので、今のところ細かいガイドラインはありません。一人ひとりのセルフマネジメント力を高めることが、いちばん重視していることですし、少しずつではありますが高まってきていると思います。

松丘:最後になりますが、1on1をやってみての感想を教えてください。

田中:通常業務の中で社員と密に対話もできていたつもりだったので、1on1なんて必要ないのでは?と思っていました。始めてみたら全然違って、すごくよかったです。通常業務ではプライベートなことを共有する風土はそれほどないのですが、1on1の時間では、一言でも体調のことを気に掛けたり、プライベートな内容の対話を習慣づけることで、社員間の相互理解の深まりを実感しています。

 業務に関しても、会社全体の成果における個人の貢献や、次へのアクションなどに関する対話を通し、会社の目標やミッションの実現に向かって個人と会社が一体感を持って進んでいくという雰囲気が出てきています。1on1のために話す内容を準備してくる社員も準備してこない社員もいますが、特に問題として捉えていません。1on1の終盤の時間は仕事の打ち合わせのようになることもありますが、創意工夫や価値創造を生み出す対話となるので、とても意味のある時間だと感じています。

松丘:1on1の意義が分かる深いお話だったと思います。本日はありがとうございました。

 



松丘 啓司(まつおか・けいじ) 株式会社アジャイルHR 代表取締役

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。2018年にパフォーマンスマネジメントに特化した株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任。主な著書として、『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。

 

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