HRエグゼクティブコンソーシアム代表でアジャイルHR取締役でもある楠田祐氏とアジャイルHR代表取締役の松丘啓司の対談をお届けします。

 

HRテクノロジーもアジャイルに

 

楠田:昨年2018年9月に、ネバダ州ラスベガスで開催されたHRテクノロジーカンファレンスに参加してきました。テクノロジーベンダーが約400社ほど出展されていたので、かなりの数の出展ブースを訪問して、話を聞いてきたんです。全体的な感想として、「すごく変わったな」という印象がいくつかありました。

1つ目は、ブースにいるスタッフの人たちのカスタマーサクセス力が極めて高いということです。日本のそういった展示会に行くと、大体どの客にも同じような機能の説明をするスタッフが多いのですが、彼らは機能の説明をする前に、我々お客に「何を目的にこのブースに立ち止ったんだ?」といきなり質問してくるんですよ。その後も、こちらの発言や質問に関して、きちんとフィードバックしてくれるんです。1on1コミュニケーションができる人がすごく多いと驚きました。

もう1つは、HRテクノロジーを提供するベンダーの勢いがすごかった。マイクロベンダーと呼ばれる会社が多かったのですが、自社の考え方や製品を一生懸命に普及させようとしていました。小さな会社でも、グローバルなビッグカンパニーがクライアントになっていたりするんですよ。逆に、従来の「何でもできます」みたいな企業は、あまりお客がブースに立ち寄らないし、「システムでも何でもできます!」みたいな説明しかしてないという印象です。

3つ目はシステムのユーザーインターフェイスが極めてよくなっている。説明書がなくても、現場の人が自分の感覚ですぐに使えるツールに変わってきたと感じます。昔は、説明書を読んだり、説明を聞かないとよくわからなかったりするものが多かったけど、今は取扱説明書がなくても使えるものがほとんどでしたね。

松丘さんはその点についてどう思いますか?

 

 

松丘:私どもも1on1naviというパフォーマンスマネジメントに特化したツールを開発して提供していますが、昔のように何でもかんでも1つのシステムを使ってやろうとすると、どれも中途半端にしかできないと感じています。また、何でもできるシステムを導入するのは、ものすごく大ごとになってしまいますよね。「システム入れるのに1年かかります」となるとアジャイルな展開ができない。

HRのツールは、使われないと効果が出ないので、どれだけ使われやすいかが重要と思います。また、使いながらユーザーも慣れてくるので、まずは使ってもらってから、ユーザーの声を聴いて必要なサポートをしたり、機能改善をしたりというということをやっていく必要があると思います。そのため、重厚長大なシステムだと効果が出にくいと感じますね。

 

楠田:現場の人が使いながらプロトタイプ的にどんどん良くなっていく、どちらかというと粘土細工みたいなイメージですね。お客様もベンダーも一緒になって、粘土をいじって作っていくアジャイルな形にシステムも変わってきているのでしょうね。

 

自律できない管理職

 

HRテクノロジーカンファレンス以外にも、昨年はもう一度アメリカに出張に行ったんです。その際に、いくつかのカルフォルニアの企業の本社にも訪問して、ヒアリングをしてきました。話を聞く中で感じたのは、アメリカはGAFAを初めとする超エリート高額所得者と、そうではない低所得者層と完全に二極化しているなということです。中間層というのが、マイノリティになってきている。

日本はどちらかというと評価が中心化傾向にある。中層の所得の人が非常に多いので、あまり差がつかない。もともと序列を付けるのは好まないですしね。そういう環境のところに、最近ノーレイティングが入ってきましたが、日本では少し違う意味で入ってきてしまっているのではないかと感じますね。ブームだからいきなりそれをやろうというのも、ちょっと違うと思っています。パフォーマンスマネジメント全体で、もっと日本はこうあるべきという松丘さんの考えを聞かせてください。

 

松丘:日本の企業、特に大企業はほとんどがウォーターフォール型の目標管理というのを未だにやっています。組織自体もすごいピラミッド型で、会社全体の目標を下にカスケードダウンしてその達成度で評価する。そういうやりかたを、多分99%くらいの会社がやっているんじゃないでしょうか?

その弊害というのは決して小さくないと感じています。数多くの企業で目標が上から降りてくるので、現場の人は「上が決めてくれないとできません」とか「言われてないからやりません」といった感覚になっている会社がすごく多いという印象です。

 

楠田:確かに多いですね。僕も自律できない人が管理職になっていくパイプラインができているなと思っていますね。

 

松丘:でも自律できない割には、上になると一応、権限的なものや、自分は偉いんだという感覚もある。現場で自分で考えて自分で行動するということが少なくっているので、そういう環境だとイノベーションが起りづらいですし、そもそも仕事がつまらないものになってしまうと思いますね。

 

楠田:日本は特に戦後に成長した製造業がすごく多いですよね。第二次産業革命、大量生産、大量消費の時代に起業されて、100年くらい経つ企業が多いですけども、かつて日本にはそういう製造業の物づくりの工場がたくさんあって、都会にも工場がいっぱいありましたよね。今の日本の人材マネジメントは、ブルーカラーの仕事のやり方をホワイトカラー化しているという印象です。昔ながらの働き方をしてきた人がそのまま上になってきているから、どうしても余計なことは言っちゃだめという風土ができている。確かにそれが強みだった時代もあって、それだからこそGDPで世界2位を40年以上も維持してきたというのは事実としてありますけどね。

 

ミドルが弱体化した20

 

松丘:もちろん、そういう部分もあると思います。ですが、私の社会人経験を振り返ると、成果主義が入る以前の日本企業のミドルは今よりもっと力を持っていました。

 

楠田:持っていたね。昔は課長っていったら、すごく力を持っていたね。

 

松丘:そうですよね。30代半ばぐらいから40過ぎくらいの課長さんが何でも決めていた時代で、上はどちらかというとお飾りのようなものでした。課長クラスが戦略や予算を作って、一応、上に上げてからおろすというミドルアップダウンが昔の日本企業の強みだったと思うんです。ですが、成果主義になってからミドルの裁量権がはく奪されてしまったわけですね。ミドルが自由裁量でやっているとコスト削減もできないので、中央の統制を強めたのですが、それが20年くらい続いたことでミドルが弱体化してしまったのが現状と思います。

 

楠田:おっしゃる通りですね。私も昨年からずっと調べているんですが、アメリカ合衆国とヨーロッパの先進国で、マネジメントを初めて経験するのが27歳というのが増えています。日本は現時点でどうなっているかなと思い、いくつかの大手企業にヒアリングをした所、15年経って課長というケースが崩れていないんですよ。100人新入社員を採用すると1人くらいは30代前半で課長になってるんだけど、そんなのは稀。ポストがないということも含めて、管理職になるのが40歳過ぎてなるところが圧倒的に多くなっています。

化学メーカー、電気メーカーも。22歳で入社して42歳になるまで部下ゼロというのが圧倒的に多いんですよ。総合商社は比較的早くて32歳で管理職になっていますが、欧米に比べると遅いですよね。欧米では優秀であれば最初からマネジメントにつかせ、経験させて育てていく。遅い人はもちろん30過ぎてからという人もいるけど、いずれにしても日本みたいに40歳くらいになってからマネジメントするっていう方が稀みたいですね。日本は80年代前半までくらいは、係長や主任でも部下がいた。僕自身も20代のころから部下がいたし、主任の時でも8人部下がいた。若い頃から部下がいて、マネジメント力が身についていった。今はそうでないですよね。

 

松丘:昔は人口も多かったし、組織の形もピラミッド型でしたよね。早くマネジメント経験をする、また、仕事においても早く大きな経験ができたというメリットはありました。今、日本企業にそれを求めても無理なわけです。人口構成も逆ですしね。以前と同じ育て方はできないし、皆に部下を持たせようと思っても部下自体がいないので、違う組織の在り方を考えていかなければいけない時期に来ていると思います。

皆が皆、上に上がっていくことをモチベーションとして考えると成り立ちません。成り立たないのにもかかわらず、昇進昇格して給与も上がって経済的にも社会的にも自分の価値が高まっていくみたいな感覚を持たせ続けるのは、まやかしかなと感じます。

 

動機づけの再設計が必要

 

楠田:現状は40歳で管理職、55歳で役職定年になり、65歳で定年。15年しか管理職になれない。70歳まで働く社会を作ろうとしたときに、この人材マネジメントのやり方はうまくいくのか?日本は解雇もできないので実際、終身雇用になっています。やめる、やめるという人もいるけど、残っている人がマジョリティ。このままでグローバルで勝てるのかな?という心配はありますよね。

 

松丘:動機付けのやり方をかえていかないといけないと思います。昇進や報酬が上がることによる動機付けや、やめさせられないのでほどほどにやっていければ平気という意識を変えていく必要もあります。

今までと違う動機付けとして、「仕事をすることが楽しい」「役に立てることがうれしい」といった、自分自身の内的な動機が満たされるようなマネジメントに変えていかないと機能しなくなってくると感じています。

 

楠田:確かに。アメリカの会社にインタビューをしたとき、マネジメントを経験したくないという人も結構いる。部下もいらない、専門職でやりたいという人に対して、モチベーションを上げるようにしていると聞きました。日本では管理職になれないと左遷されたような感覚がある。でも、管理職にならなくても、専門能力があってそれを高める人達への承認をきっちりとやっていかなければならないですよね。

 

松丘:ウォーターフォール型の目標管理で、上から与えた目標の達成度で評価すると、褒めるよりも、できていないことを指摘するフィードバックが多くなりがちです。人への承認がなかったり、人として尊重されなかったり。最終的には個人目標やチームの目標を達成することが目的になるので、サイロ的、個人主義的にもなります。そうすると隣のチームが何やっているのかよくわからなくなります。隣がよく分からないと、隣のチームと連携して何かをする機会がなくなります。閉じた世界で仕事をしているのはつまらないですし、やらされているという感覚になりがちです。

仕事を楽しくしていくことが重要と感じます。「仕事とはそういうものではない」と反発する人もいるかもしれませんが、イノベーションを起こすためにはいろいろな専門性を持つ人と関わっていく必要があるし、そのためには今のサイロの状態を崩していく必要があると思います。

 

モバイルツールが組織を変える

 

楠田:ともすると、マネジャーは部下を全く見ていなくても評価できてしまう会社がありますよね。組織としては売上、利益が上がっているから別にいいと。多くの社員は、朝から晩までパソコンに向かっているので、もう一度、生身のコミュニケ―ションをやっていかなければいけないと感じています。実際に対面でマネジャーと部下が会えなくても、しっかりコミュニケーションできるツールというものが必要だと感じています。今はまさにそれがスマホ。2019年はそういうものを当たり前に使いこなしていくことが必要だと思います。「社員にスマホを持たせている、持たせていない」とかそういうことを言っている場合ではない。ビジネスツールとして当たり前に持っていないとダメかなと。アジャイルHRが開発している1on1naviはそこをうまく見据えて来たなと感じますね。

 

松丘:モバイルというのは、うまく使いこなせば、日本の会社が変わっていくきっかけになり得ると考えています。若い世代はモバイルのコミュニケーションが当たり前。むしろそれがない生活は考えられない世代です。そういう世代がどんどん会社に増えていきます。会社は「仕事なんだからそういうのは必要ではない」というのではなくて、会社の中のコミュニケーションの問題を解決するきっかけとして、若い世代のコミュニケーションスタイルの良い所を取り入れていくと考えた方がよいのではないかと思います。

「今からやれと言われても困る」という年配の方もいますが、そうするとそこが変化の阻害要因になってしまうので、使いこなせないまでも、少しでも慣れていく必要があると思います。今時70代でもSNSを使いこなしている人もざらにいるので、できないというのは言い訳ですよね。

 

楠田:50代の人が使いこなしている会社もあれば、全然使えない人もいる。僕もかなり使っている方だけど、まったく使えない人も結構いる。企業風土や柔軟な働き方を認めているかどうかだけだと思いますね。

 

松丘:リバースメンターが有効そうですね。

 

楠田:そう、それをやらないとサイコロジカルセーフティ(心理的安全)がない。若い人たちの意見を上の世代が潰してしまいますよね。若い世代にどんどん教わるように意識して、新しい仕組みも積極的に入れていく必要がありますよね。いつの時代もそれぞれの産業革命を乗り越えてきたわけですが、産業革命が起こる際には、人材マネジメントの方法が同じく変わってきたんだと思います。人事は、そういう流れをしっかり見極めて、自分たちも1つの現場としていろいろ使いこなして乗り越えていく必要があると思います。

 

松丘:モバイルツールを使いこなしてコミュニケーションをしていくと、そこからいろいろなデータが得られるようになります。今まで得られなかったようなデータを分析して、経営にも活用できるようになりますね。

 

楠田:そうですね。今までもデータはあったけど、活用ができるものではなかった。

 

松丘:今までは、例えば社員情報、評価の情報、経歴等の情報がメインでしたけど、モバイルツールでは、一人ひとりの気づきや、上司からのフィードバック等のテキスト情報や毎日変化する動的なデータからいろいろなことが分析できるようになります。そういう情報を経営に活かしているか、またどう活かすかで組織の力が変わってくると感じますね。

 

楠田:第一次産業革命時代に、みんな馬車で移動しているときに、自動車がでてきて、その時に「やっぱり馬だろ!」と言っていた人は遅れていった。馬のまま仕事していては勝てないということなんじゃないかな。今年、新しい元号になる。心機一転、新しい時代の波に乗るんだ!という気概で変革していってほしいと思います。

 

 

楠田 祐 (HRエグゼクティブコンソーシアム 代表)

NECなど東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。会長を経験後に中央大学大学院ビジネススクール客員教授(MBA)を7年間経験。2015年は日テレのNEWS ZEROのコメンテーターを担当。2016年より人事向けラジオ番組「楠田祐の人事放送局」と「楠田祐の人事アウトサイド・イン」のパーソナリティを毎週担当。2017年よりHRエグゼクティブコンソーシアム代表に就任。2018年より株式会社アジャイルHR取締役に就任。

(主な著書)

「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。最新の著書は「内定力2017〜就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)

(主なCDアルバム)

「破壊と創造の人事」2015年6月発売
「残業イルミネーション」2015年12時発売
「The Times Will Change」2016年12月発売