本年4月に「1on1マネジメント~どこでも通用するマネジャーになるためのピープルマネジメント講座」(松丘啓司著、ファーストプレス)を上梓しました。
本書には1on1に関する数多くのポイントが盛り込まれていますが、本コラムでは7つのメッセージをご紹介します。

【1】なぜピープルマネジメントか

ピープルマネジメントは「ピープル」と複数形で呼ばれますが、その内容は1人ひとりに応じた成長を支援することです。一部の優秀人材のみを選抜して育成するのではなく、すべての組織メンバーを対象とするため「ピープルマネジメント」と呼ばれているのです。

なぜすべてのメンバーを対象にするのかというと、イノベーションが必要だからです。イノベーションは本部の商品開発部門やマーケティング部門だけではなく、実際に変化に対面している現場でこそ求められています。
現場で創意工夫することによって、イノベーションを起こす余地はたくさん存在します。これまで上意下達の一律的なマネジメントを行っていたために、そのことに気づいていないだけです。1つひとつのイノベーションはたとえ小さなものであったとしても、積み重ねれば大きな成果となります。

それを可能にするためには、1人ひとりの自律性と意欲を引き出し、多様な視点や強みを活かすことが不可欠です。そのために、ピープルマネジメントが脚光を浴びているのです。高い所から統率するのではなく、現場における個々人を主役に育てなければ、組織全体の成長力は高まらないのです。


【2】目標管理はマネジメントではない

ほとんどの日本企業では目標管理制度が導入されています。そこでは、期初に目標を設定して、期末にその達成度によって評価が行われます。

その制度を長く続けてきた結果、目標管理=マネジメントという固定観念が定着していますが、目標管理はピープルマネジメントではありません。なぜなら、目標管理で見るのは業績やKPIであって人ではないからです。
目標管理制度では期初に立てた目標の達成度によって評価が行われます。マネジャーはあたかも採点官のように、達成度に基づいて評価を決定します。その結果、マネジャーの意識の中には、いわば「採点官マインド」が浸透してしまっています。

このマインドは払しょくされなければなりません。マネジャーは管理者と呼ばれてきましたが、管理や採点をしているだけで個人のパフォーマンスは高まらないからです。成果につながらなければ科学的なマネジメントとはいえません。

「高い達成度を実現したら評価してやるからがんばれ」とマネジャーは部下を動機付けてきましたが、がんばりの部分は本人に任されていました。ピープルマネジメントが対象とするのは、入口と出口で管理することではなく、その本人のがんばりの部分を支援することです。 マネジメントに対する発想の転換が最初のステップとして必要です。


【3】コーチ役ではなく実践者であることの必要性

「1on1マネジメント」は、1on1におけるマネジャー向けの参考書として著しました。そう聞くと、メンバーとのコミュニケーションスキルを高めるためのハウツウ本のようなイメージを持たれる人が少なくないかも知れません。
もちろん、マネジャーにはコーチングやフィードバックなどのスキルも必要ですが、何よりも大切なことはマネジャー自身が実践者であるということです。

自分自身のビジョンを考えたことがないマネジャーには、メンバーのキャリア開発を支援することはできません。マネジャーがチームの戦略を真剣に考えていなければ、メンバーの目標設定をまともに支援することはできないでしょう。

マネジャー自身が実践をせず、1on1の場でメンバーの成長を支援しようとしても、メンバーからすると真実味を感じられないに違いありません。
逆に自分自身やチームの未来について深く考えているマネジャーは、コミュニケーションスキルが多少、不足していても内容は深まるはずです。コミュニケーションスキルは繰り返し経験すれば高まるものなので、マネジャー自身が実践者であることが先決なのです。


【4】自然体でよいということ

「1on1マネジメント」の本の中で、反論もあるだろうと思いながらも、あえて「寄り添おうとしなくてよい」「共感しなくてよい」と書きました。もちろん、相手に寄り添い、共感することによって、感情のつながりによる深い理解と信頼が得られることはわかって書いています。

しかし、やさしく思いやりのある人にならなければよいマネジャーにはなれないと誤解されると、マネジメントに対する理解が歪んでしまいます。マネジメントは人格を変えることではなく、適切なマインドセットをもって経験することによって上達するものだからです。

もう一つの問題は、上司と部下という組織の上下関係において、マネジャーに寄り添ったり共感したりすることを求めると、自分の立ち位置が混乱してしまうことです。上司は組織の上位者であるからこそ部下の成長を支援できるため、上から下りてきてべったりと寄り添うようなイメージは誤解を与えてしまいます。

ぶっきらぼうで一見、冷たそうに見える人は、それも個性なので自分の個性を活かしたマネジャーになればよいのです。無理に感情移入までしなくても相手の違いを理解しようとする姿勢を持っていることが重要です。もちろん、もともと共感力の高い人は、その能力を活かせばよいでしょう。
要は「かくあらねばならない」というのではなく、自分らしいマネジメントのスタイルを模索することが大切なのです。


【5】気づく力を育むことの大切さ

イノベーションがビジネスのパフォーマンスを大きく左右する時代になっています。イノベーションといっても、新技術や新製品の開発といったものばかりでなく、あらゆる職場における創意工夫によって、新たな価値を生み出していくことが求められています。

イノベーションは理屈からではなく「気づき」から生まれます。発想力を広げるためにデザイン思考といった手法が脚光を浴びていますが、そのような方法だけでなく、自分自身の気づく力を磨くことが重要です。1on1はそのための絶好の機会といえます。

進捗管理会議での報連相から気づきは生まれません。自分がどのように感じたか、なぜそのように感じたのかと、自分の内側に目を向けること(リフレクション)や、他の人がなぜそういう発言をするのだろう、どのような価値観を持っているのだろうと推論すること(対話)が気づきのきっかけを生みます。
また、たとえ失敗してもそこから何を学んだかが重視されるカルチャーが重要です。自分の成果を正当化する人よりも、自分の気づきをオープンに語れる人がレスペクトされるカルチャーを創ることが大切になります。


【6】1on1は上司のための場でもある

1on1は部下のための場としばしば言われますが、同時に上司のための場でもあります。その意味は、上司自身が自分のマネジメントスキルを磨く場でもあるということです。

部下は経験学習を通じて成長しますが、上司も同じです。特にピープルマネジメントのスキル向上には経験が不可欠です。部下は十人十色であり、同じ部下であっても置かれた状況によって状態は異なります。さまざまなパターンで経験から学ぶうちに、自然と身に着いてくるものなのです。

しかし、日常の仕事の中で上司と部下が対話する機会を持つことは容易ではありません。そのため、1on1という機会が上司にとっても有益になります。上司のマネジメントスキルが不足しているから1on1ができないといっていたら、いつまで経っても状況は変わらないのです。

通常、上司は複数の部下を持っているため、部下よりも1on1の経験回数が多いのが常です。そのため、1on1を導入することによって、上司にとっての学習機会は格段に増えます。ただし、上司も1on1をやりっぱなしにするのではなく、毎回の1on1の後、少しの時間でも振り返ってみる習慣をつけるのがよいでしょう。


【7】ポジティブフィードバックの大切さ

1on1が企業に広まっている理由の1つは、従来の目標管理面談ではパフォーマンス向上に役立たないと認識され始めていることです。従来の面談はその名のとおり目標の達成度の管理が中心でした。つまり、与えられた目標をどれだけ達成できたかを評価することによって、外発的に動機付けていたのです。

その結果、面談に臨む姿勢はどうしても身構えたものとなり、心を開いて思ったことを何でも話せる雰囲気ではありませんでした。そのような息苦しいコミュニケーションから部下の意欲が高まったり、新たな気づきが生まれたりすることを期待するのは困難です。

1on1では内発的な動機付けが基本です。モチベーションの源泉や価値観は一人ひとり異なり、個々人に応じた対応が求められるからこそ、1対1のマネジメントが必要とされるのです。そこでのマネジメントの主眼は個人の強みを引き出すことにあるため、ポジティブフィードバックが重要になります。

その人らしい強みが発揮された行動に対して、ポジティブなフィードバックがなされることで、望ましい行動が強化されます。それによって、さらにチャレンジしたいという意欲が高められます。そのサイクルを継続することによって、外発的な動機付けでは得られなかった高い成果が期待されるのです。

従来の目標管理では外的な基準に照らして「ダメ出し」をすることが、部下を育てるために必要と考える上司が少なくありませんでした。しかし、そのアプローチでは、結果として部下も成長せず、成果も抑制されてしまっていたのです。


エム・アイ・アソシエイツ株式会社
代表取締役社長 松丘 啓司